第209号【郷くんち~竹ん芸~】
みこしを担いで町を巡行したり、神楽や奉納踊りを披露したりなど、全国各地が神社の秋祭りで賑わう10月。収穫を感謝し、神様にお供えものを捧げる秋祭りの表情は、それぞれの地域の歴史と風土を映し出し実に多彩です。あなたがお住まいの町では、どんな秋祭りが行われましたか? 長崎市では10月7~9日の「長崎くんち」が終わったあとも、市内の約30地区で「郷(さと)くんち」と呼ばれる秋祭りが行われています。11月下旬頃までは、市内のどこかで賑やかな祭り囃子が響き、郷土芸能が繰り広げられるのです。ここ数年、各町とも郷くんちに力を入れているのか、子供も大人も積極的に参加して出し物の練習にはげんでいる様子を見かけます。地域の人々の親ぼくを深めながら、町おこしにもつながる郷くんち。これからの人づくり、町づくりにどんどん活かせたらいいですね。 長崎の郷くんちは、龍踊りを披露する「滑石くんち」、浮立など郷土芸能を奉納する「三重くんち」、「式見くんち」などがあり、それぞれ地域にゆかりある出し物が行われ賑わいます。中でも人気を誇るのが、「若宮(わかみや)くんち」の「竹ン芸」(たけんげえ)です。長崎市伊良林にある若宮稲荷神社の奉納踊りで、長崎市の無形文化財に指定されています。 毎年、10月14、15に行われる「竹ン芸」は、白装束に狐のお面をつけた二人の若者が竹によじのぼって芸をするのですが、そのアクロバティックな妙技を一目見ようと年々見物客が増える一方です。今年もその舞台となる神社の境内には大勢の人が集まり、楽しみました。 200年ほど前、地元の八百屋町が諏訪神社へ奉納したのがはじまりと伝えられる「竹ン芸」。明治に入ってから現在の神社での奉納踊りになったそうです。使用される青竹は、10メートル以上もある太くて立派なもの。1本は強くしなる真竹。もう1本は孟宗竹(もうそうだけ)で、これにはカセと呼ばれる15本ほどの足掛けが、はしごのようについています。まずこの孟宗竹を雌狐が芸をしながら登っていきます。 そのあと雄狐も追い掛けるように登りはじめ、二匹の狐が逆さになったり、扇形をつくったりし、隣の真竹に移ると、泳ぐように両腕をぐるぐるまわしながら前後に竹をしならせます。観客は竹が折れはしないか、狐が足をすべらせはしないかと、冷や冷やしながら演技を見守ります。 狐たちの身体の動きは雄弁ですが、表情を変えない真っ白なお面は、間近で見ると、神秘的でちょっと怖い感じもします。二匹とも同じ面だと思っていたら、鼻の形に雄と雌の違いがあるようです。 「竹ン芸」は、狐の動きに合せて音色を奏でる囃子もすばらしい。この囃子は、長崎市田中町中尾地区の方によるもので、長崎県の無形民俗文化財になっています。唐笛や片側だけに皮をはった太鼓など唐楽器が奏でる音は、狐の芸に合せて曲調が変わります。そのタイミングは合図があるわけではなく、囃子方と狐役がお互いを感じ合いながら上手く合せていくのだそうです。今年見逃した方は、ぜひ来年ご覧ください。
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