第205号【華やかに先祖を送りだす中国盆】

 秋空にくっきりと映える唐寺の黒い屋根と朱色の壁。その参道や境内にぎっしりと飾られた、赤、黄、ピンクの華やかなちょうちん。果物やお菓子が供えられた祭壇では、赤いロウソクの炎が風に揺れ、寺中に立ちこめる竹線香の香煙の中を、華僑の人々が列を作り、厳かに礼拝をしています…。長崎市鍛冶屋町にある唐寺・崇福寺(そうふくじ)で行われた中国盆の光景です。毎年旧暦の7月26日から3日間行われる伝統行事で、今年は9月10日からはじまりました。




 朱色の御堂がいかにも唐寺らしい崇福寺は、国宝や国重要文化財などを擁した由緒あるお寺で、中国・福建省出身者のぼだい寺として知られています。毎年、中国盆がはじまると全国から同省出身の華僑の人々が集い、先祖の霊を供養しています。




 この極彩色に包まれた中国のお盆は、日本のお盆にはない珍しい習わしが数々見られることもあり、観光客も大勢訪れます。たとえば、本堂そばの中庭には、質屋、文具店、タバコ屋、時計店、金物屋など、36軒のお店の“絵“がズラリと軒を列ねます。これはお招きした霊が利用する、いわば仮想冥界の商店街で、「三十六堂(サンスリュウロン)」と呼ばれるものだそうです。仮想冥界といえば、「五亭(ウーテン)」と呼ばれる小さな5つの祭壇も、そういった類いのものといえます。それぞれの祭壇が倶楽部、女室、男室、新舞台、沐浴室といった役割を担い、祭壇の中は役割に応じたミニチュアの設備が施されています。この「五亭」には、霊を招いて慰めることや、現世の住居に感謝するという意味があるそうです。どうやら中国のお盆は、先祖をもてなす心が、きちんと形になっているところが特長のようです。




 先祖にお金を持たせるために、お金を模した紙を燃やすという風習も見られます。あの世用!?の紙幣の束を燃やしていた華僑の方が、「本物の一万円札を燃やした方がご利益があると思うかもしれないけど、この世で使われるお札は、あの世では使えないんですよ」と笑って話してくれました。


 中国盆3日目の夜。境内では中国獅子舞が披露されます。子供たちが演じるかわいい獅子舞と、大人たちが演じる本格獅子舞。華僑の人々の間で脈々と受け継がれる伝統の踊りは圧巻です。




 お坊さんたちのお経がすみ、中国盆もいよいよ終わりに近付いた夜10時頃、境内で「金山」「銀山」の飾りが燃やされました。「金山」「銀山」とは、円すいの形に仕上げた竹の骨組に、それぞれ金紙、銀紙を張り付けたもので、これも先祖があの世でお金に困らないようにする習わしだといいます。




 この様子を見るために見物客が境内に集まっていたところ、点火前に一時的に激しい雨が降りました。ちゃんと燃えるだろうかと心配されましたが、約二百本はあるという「金山」「銀山」は、盛大に燃え上がりました。思わず後ずさりしてしまうほどの勢いで燃える炎と、耳をつんざくような爆竹の音。その中をくぐりぬけるように、先祖の霊は西方浄土へと送り出されていったのでした。


◎参考にした本/「時中」(長崎華僑 時中小学校史・文化事誌編纂委員会」

検索