第419号【五島でいただく冬の魚】
旧知の五島の漁師さんのお宅で食事をいただく機会がありました。急におじゃましたのにも関わらず、刺身や煮付け、吸い物などいろいろな魚料理でもてなしてくれました。長崎県はほとんどの地域で新鮮な魚が手に入りやすいのですが、自然に恵まれた島の魚というのは、おいしさも格別です。脂ののった冬魚をお腹いっぱいいただきました。 いつも気さくな漁師さんご夫妻。「特別なものは何もなかけど、よかね」と言いつつ奥さんが最初に出してくれたのは、クロとカレイのお刺身です。いずれもご主人が数日前に釣り上げたもので、漁船のいけすで活かしていたとか。ちなみにクロというのは五島や長崎での呼び名で、メジナのことです。クロダイに似た白身魚で、独特の磯の香りがします。カレイは、身が柔らかく淡白で上品な味わい。五島では、ヒラメほどは獲れないらしく、ご主人や奥さんも「ちょっとめずらしかったね」といいながら、その味に目を細めました。 この日、早朝に漁に出たものの一匹も釣れず、地元の市場でカツオ、小アジ、エソを手に入れて来たというご主人。箱いっぱいの魚を、奥さんが慣れた手つきでウロコやゼイゴ、エラ、ワタをとり、下ごしらえをしていきます。漁師の妻の包丁さばきは、年季が入った腕前で見応えたっぷり。そうこうするうちに、カツオはたたき、小アジは刺身や南蛮漬けになり、エソは小アジと合わせてかまぼこへと変身したのでした。 奥さんが調理をしている合間に、港に停泊するご主人の漁船へ行ってみると、いけすからイサキを取り出したところでした。タイなどにも匹敵する味ともいわれるイサキ。よく出回るのは夏ですが、もちろん冬もおいしい。こちらも刺身でいただきました。 漁師歴60年以上のご主人によると、海の環境の変化で、昔に比べてまったく魚が獲れなくなったそうです。五島の美しい海もまた地球レベルの環境の変化の影響を受けているのでしょう。あらためて日常生活のなかで環境のためにできることをやっていこうと思ったのでした。 帰り際、お土産にいただいたのが水イカ(アオリイカ)です。肉厚で甘みのある水イカは、イカの王様なんていわれるほどのおいしさです。昨年末に獲って冷凍していたもので(冷凍すると甘みが増すそうです)、お刺身と湯びきでいただきました。 折々においしい五島の味を届けてくださるご夫妻。毎年、年末になると育てたサツマイモでかんころもちも作ります。漁や野菜作りの生活は、止めどなくやることがあって、思いのほか多忙のよう。軒先にはいま、切り干し大根が干されていました。新年早々、にこやかに迎えてくれたおふたりのご好意にしみじみと感謝。健康と幸せを願いながら帰路に着いたのでありました。
もっと読む