第424号【春を告げる長崎の魚介類】

 春は海草や貝類がおいしい季節。採取が解禁になり、各地の海辺がにわかに賑わいはじめているようです。3月中旬、平戸島の「薄香」という地域を訪れたときは、港でヒジキが天日干しされている風景に出会いました。また、3月下旬には、五島の知り合いから刈り採ったばかりのワカメをいただき、あらためて春の到来を実感したものです。





 

 潮の干満の差が大きい春は、潮干狩りのシーズンでもあります。自分で採ったアサリやハマグリで潮汁(うしおじる)を作ったことのある方も多いのではないでしょうか。貝から滲み出す潮の香とうま味。これも春を告げる味ですね。

 

 長崎の市場をのぞくと、アサリやハマグリなど旬の貝類が最前列に並べられていました。酒蒸し、バター焼き、煮付け、酢の物、スパゲティあれこれメニューを思い浮かべながら買い求める量を見計らっていると、店の女将さんが、アサリの殻を割って見せてくれました。現れたのは、しっとりとしたプリプリの身。殻からはみ出しそうなほど肉厚です。有明海に面した小長井産(諫早市)のものだそうで、「近頃こんなに身の詰まったものは、なかなか無いんですよ」と女将さん。関西など遠方の知人にも送ってあげているそうです。



 

 アサリの隣には、アゲマキ貝が並んでいました。殻の長さ7~8cmほどの二枚貝で、身には角のようなもの(水管)が2つ付いています。その姿が、古代の少年が頭髪を左右に分け、頭上に角のように巻き上げた「総角(あげまき)」という髪型に似ていることから、この名で呼ばれるようになったとか。長崎では有明海の貝としてよく知られていますが、残念なことに昔に比べずいぶん減ってきたと聞きました。洗ってゆでるだけという簡単な調理でいただくことが多く、独特の甘みがあります。ひと昔前の地元では、春から初夏にかけての定番おかずのひとつだったようです。ゆで汁は、あっさりとしたうま味があります。その汁で素麺をゆで、アゲマキ貝の身をのせていただく「アゲマキ素麺」が郷土の味として残っています。



 

 アゲマキ貝と同時期に出回りはじめるのがマテ貝です。先日、大村湾の出入り口に位置する佐世保の針生(はりお)というところで採れたマテ貝を手に入れました。10cm前後の細長い貝で、干潮時には、砂の奥深いところに潜っています。採り方を聞いたところ、マテ貝がいる砂の表面には穴ができるので、そこに塩をふりかけ、飛び出してきたところを捕まえるとか。さっとボイルして、酢みそなどでいただくことが多く、アゲマキ貝とは微妙に違う甘みとうま味があります



 

 波静かな大村湾に面した長崎市琴海町では、ノコギリ貝が春の海の幸のひとつです。殻の表面が「のこぎり」のようにギザギザしているので、地元では昔からそう呼んでいますが、正式な名前ではないとか。味はアサリに似ているそうです。ノコギリ貝の本当の名前はさておき、今年も、そしてこれからも、春を告げる魚介類を、おいしくいただくことができますように。
















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