第422号【キビナゴづくし】
長崎ではほぼ1年中出回るキビナゴ。体長10センチ前後の小さくて細長い青魚です。頭から尾にかけて濃い青色の線と、銀色の帯状の線が入っているのが特長です。キビナゴは、大きな群れをつくって温かな海を回遊します。水族館でその様子を見たことがありますが、群れはまるで巨大な魚のようでした。
きれいな海でしか生息できないといわれるキビナゴ。長崎県内ではイワシやサバ、アジなどと同じ大衆魚のひとつとして昔から親しまれてきました。特に五島列島近海のものが鮮度の良さ、味の良さで知られています。旬は夏といわれていますが、冬場も身が引き締まっておいしいです。
キビナゴは脂肪が多くて、身が柔らかいのが特長です。刺身やしょうが煮、南蛮漬けなどいろいろな料理がありますが、郷土料理として特に知られているのは、「いり焼き」と呼ばれる鍋料理です。醤油味の出し汁で煮た野菜鍋に、キビナゴを箸でつまんで入れ、身が白くなる程度にさっと火を通していただきます。食べる時は、頭から尾に向かうと身離れがよいです。普段から食べ慣れている漁師さんなどは、歯で軽くしごくようにしてきれいに中骨を抜き取ります。
五島列島では食べ物が現在のように豊富でなかった時代から、サツマイモと並ぶ主要な食材のひとつとしてキビナゴを食べてきました。煮干し、素干し、塩漬け、湯引き、塩ゆで、刺身、酢もみ、味噌田楽など伝えられる調理法はシンプルながら多彩です。キビナゴはその小さい身体に青魚独特の旨味がつまっています。かつて昭和天皇が福江島へいらしたときに、キビナゴの味噌田楽をたいへん喜んで召し上がれたというエピソードが伝えられています。
刺身などにするときは、手開きで内蔵を取り出します。ちなみに長崎では、「手開きする」ことを「おびく」と言います。頭を取り、親指を使って腹側から中骨に沿って開いていきます。中骨は尾の方から取るときれいに除けます。皿に盛り付けるときは、銀の帯模様を表にするときれいです。刺身醤油や酢みそなどでいただきます。
漁を営む家庭などでは、まとまった量が手に入ると骨ごとすり身にして、さつま揚げやつみれなどにしているようです。長崎の惣菜屋などで目にするのは、キビナゴの天ぷらです。鮮度のいいキビナゴを丸ごと使います。長崎天ぷらの特長である甘い衣が、キビナゴのおいしさを引き立てます。
魚は、必須アミノ酸をバランス良く含んだ良質のタンパク質として知られていますが、なかでも青魚は、血流を良くするといわれるEPA、脳を活性化するといわれるDHAが含まれています。キビナゴは青魚ですから、そうした栄養価が期待できそうです。
◎日本の食生活全集42『聞き書き 長崎の食事』(発行 農山漁村文化協会)