第425号【おいしい野菜の事始め】

 江戸時代、出島を擁した土地柄もあり、何かにつけ「日本初」とか「発祥の地」といったものが多い長崎。地元にいても未だに知らないことも多く、先日も長崎の料理研究家の方から、ふだん店頭に並んでいるイチゴ(もともと日本にあった野生種とは別のもの)も、長崎に最初に伝わったのだと教えていただきました。



 

 江戸時代末期の1840年頃、オランダ船で渡ってきたというイチゴ。当時の人は、野生種よりも一段と大きいその実に恐れをなし、「毒があるかも」と思ってもっぱら観賞用として育てたそうです。その頃は「オランダイチゴ」と呼んでいました。



 

 イチゴが食用として栽培されるようになったのは明治になってから。現在では、すっかり一般的な果菜のひとつになっています。最近ではクリスマスシーズンに目立って出回るので、旬は冬だと思っている方もいらっしゃるのでは?実際は露地物の旬は5月頃。ハウス栽培などの技術や品種の改良が進み、出回る時期が早くなっているそうです。

 

 料理研究家の方によると、イチゴは10粒で1日に必要なビタミンC85mg)を摂取できるとか。ちなみに、いちごの生産量は、栃木県がダントツ1位ですが、2位福岡、3位熊本、そして4位に長崎と九州勢が続きます(平成23年度農林水産省の統計)。長崎は甘くてビタミンCの含有量も高い「さちのか」が多く栽培されているようです。

 

 イチゴと同じような伝来のエピソードを持つのが、トマトとキャベツです。いずれも江戸時代にオランダ船で長崎に運び込まれたといわれ、はじめは観賞用植物、明治以降になって食用として栽培されるようになりました。

 

 17世紀に渡ってきたとされるトマトは、「唐柿」また「オランダナスビ」などと呼ばれていました。その真っ赤な色が、江戸時代の人には血のようで不気味だったらしく、食べるに至らなかったとも伝えられています。



 

 また、キャベツは、18世紀の文献に「オランダナ」と記されているそうですが、これはキャベツと同じ種類で観賞用の「ハボタン」(葉が結球しない種類)のことだとか。食用の結球性のキャベツは幕末に伝わったといわれています。



 

 慶長年間の頃、オランダ船によって、まずは平戸のちに長崎にも運ばれたのが「ジャガイモ」です。オランダ船にゆかりがあるので、当時は「オランダイモ」とも呼ばれたとか。ジャガイモは、ヨーロッパから東南アジアのジャカトラ(現在のジャカルタ)を経て、日本へ伝来したことから、「ジャガタライモ」と呼ばれ、それが転じて「ジャガイモ」になったそうです。長崎県はジャガイモの生産が北海道に次いで全国第2位。この時期、地元では収穫されたばかりの「デジマ」という品種が出回っています。肉じゃがや味噌汁の具などにすると特においしいタイプです。長崎ゆかりの野菜をぜひ、お召し上がりください。



 

 

◎参考にした本/からだによく効く食べ物事典(監修 三浦理代/池田書店)、野菜と豆カラー百科(主婦の友百科シリーズ)

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