第415号【懐かしい味わいのご飯】

 70代の知り合いの女性から手作りの干し柿をいただきました。実家が農家で、庭に大きな柿の古樹があり、毎年たくさんの実をつけるとか。今年は500個近く実り、お孫さんらと一緒にせっせと皮をむき、紐を結び付けて軒下に吊す作業を繰り返したそうです。その方にとって干し柿作りは秋の恒例行事。素朴で懐かしい味が好まれ、お裾分けを楽しみにしている人が何人もいるようです。たくさんいただいたので、何個かは柿なますにしました。旬の美味に感謝です。





 

 北風が郷愁を誘うのか、いま頃の季節は干し柿のようにどこか懐かしさを感じるご飯が無性に食べたくなります。たとえば、「零余子(むかご)ご飯」。「零余子」とは山イモ(ジネンジョ、長イモ、ツクネイモなど)の葉腋にできる緑褐色の粒のことです。子どもの頃、野山でツルにいっぱいなっている零余子を摘んで帰り、炒ったり、蒸したりして食べた記憶のある方もいらっしゃることでしょう。



 

 零余子が店頭に出回るのは秋のほんの短い期間です。見かけたときに買い求めないと、食べ損ねてしまう年もあります。先日、長崎の市場で青森産の零余子が売られていました。八百屋の女将さんによると「青森産のほうがおいしいと言うお客さんがいるのよ。あちらは山イモの主産地だから、零余子もうまいのかもね」とのこと。

 

 イモ類を炊き込んだご飯も懐かしさを感じます。島原地方の農家では、サツマイモ、アワ、米の三種類を混ぜて炊いた「三品飯(さんちんめし)」を、農作業がひと区切りつくごとに食べていたそうです。また、佐世保の農家に育ったある方は、サトイモを収穫するとゴボウを一緒に炊き込んだご飯を必ず作っていたそうで、秋になると思い出すという方もいらっしゃいました。



 

 かんころもちで知られる五島には、「かんころ飯」というご飯もあります。かんころもちの原料になる干しイモをお米と一緒に炊き込んだもので、お米が貴重な時代にはそうやってご飯の量を増やしたという話です。

 

 さて、長崎あたりでは「ササゲ」も秋の一時期に出回ります。見た目も栄養価も用いられ方もアズキとあまり変わりません。ただ、アズキより皮が破れにくく崩れないので、餡やぜんざいにするより、赤飯などにしていただくほうがいいようです。「ササゲ」好きのある方は、出回る時季は店頭を日々チェックして見逃さないようにしているとか。お米と一緒に炊くと、ご飯がほんのりとピンク色になるところが良く、アズキとは微妙に違う食感を楽しむそうです。



 

 長崎県の北に位置する対馬地方には、アズキを使った「かけならちゃ」というちょっと変わった名前の郷土料理があります。ゆでたアズキをごはんにかけていただくもので、折々のハレの膳に用いられてきました。お椀に盛られた様子はどこか京風な感じ。もしかしたら対馬独自の歴史に由来するのかもしれません。いまでは郷土の味を子どもたちに伝えようと地域の学校給食にも出されているとか。昔懐かしのご飯は、地域の農作物や歴史をあらためて見直すいい機会でもあるようです。



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