第526号【乗り越えていく】
九州北部地方での記録的豪雨による被害に合われた方々に、心よりお見舞い申し上げます。引き続き大雨や土砂災害の情報に注意して過ごされ、どんなときも身の安全に努めてください。そして、1日も早く安定した状況になることをお祈り申し上げます。 歴史を振り返れば、異常気象や地震などの自然災害で、わたしたちの生活は幾度も窮地に追い込まれました。自然の脅威には逆らえないことを思い知らされる一方で、人々は自然発生的に炊き出しや救護を行い、助け合いながら切り抜けてきました。全国各地にはそうしたエピソードがいくつも語り継がれ、ゆかりの品々などが大切に残されていることもあります。 長崎市鍛冶屋町にある唐寺・崇福寺の大釜(市指定重要文化財)もそのひとつです。大釜の重さは約1,200キログラム、直径1.86メートル、深さ1.7メートル。一見、五右衛門風呂のようでもあるこの大釜は江戸時代のもの。石畳の境内の一角に設置されていて、いつでもその姿を拝むことができます。 この大釜が造られたのは、延宝年間(1673-1681)に各地で不作が続き飢饉が発生したことがきっかけです。その流れで長崎では1681年(延宝9)に大飢饉が起き、餓死者が出ました。当時の崇福寺の住職は自分の衣類や道具を売ったり、托鉢をして浄財を得、庶民に粥を施したと伝えられています。そして、増える難民に応じるためだったのでしょう、翌年、同町内の鋳物師に、一度に十俵(約三千人分)の粥を炊くことができる大釜を造らせたのでした。 大釜は、その大容量で多くの難民を救ったと伝えられています。実際に目の当たりにすると、釜戸に乗せたり、米と水を入れたり、粥をついだりする作業はかなりたいへんだったろうと想像できます。まさに人々が協力し合っての施粥だったに違いありません。 近年、相次ぐ自然災害の折、被災地で人々が助け合い、協力し合う姿を報道などでよく見聞きします。人はきっと、危機にさらされた状況を見たとき、本能的に手をつなぐようにできているのかもしれません。そして、今回の豪雨の被災地に対しても、自分にも何かできることはないかと思う方も大勢いらっしゃることでしょう。 災被災された方々が元気をとりもどすことを願って、本当にささやかですが、長崎から「ハート」のある風景をお届けします。まずは、眼鏡橋のそばにあるハートストーン。ここは観光客の姿が絶えない場所。愛する気持ちをたくさん浴びたストーンですから、きっと縁起がいいはず。そして、ハト胸ならぬ、ハート胸のネコ。数年前、浦上天主堂の敷地内でひょっこり出会ったネコです。胸の毛並みを見るたびに、気持ちがゆるみます。 梅雨空の下、長崎港に出ると先月下旬に初入港した「ノルウェージャン・ジョイ」(167,725t)という大型客船が再び寄港していました。建造されて間もない船で、白い船体に描かれたイラストが目を引きます。長崎港にはこの夏も多くの客船が入港を予定しています。多くの人が笑顔で往来する平穏な風景のありがたさを感じるほどに、被災地への思いは募ります。被災された方々がこの窮地を乗り越え元気をとりもどすことを心から祈ります。
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