第530号【残暑の初秋、郷土食で養生】

 猛暑をのりこえて、ほっとひと息。朝夕の涼しい風がとてもうれしいですね。しかし、九州の日中は夏にもどったような暑さがまだ続いています。そんな気候に身体がついていかず、体調をくずしている方も多いことでしょう。そんなときにおすすめなのが「トウガのおつゆ」です。


 

 「トウガ」とは長崎での呼び名で「冬瓜(とうがん)」のこと。地元では816日の精進落ちに「トウガのおつゆ」を食べる習わしがあります。トウガは、盛夏の食材のイメージが強いのですが、初秋も旬は続いています。90%以上が水分で、ビタミンCも多めに含まれるトウガは、薬膳では、利尿作用がある食材として知られています。味は淡白で、生のまま食べるとスイカの皮(白い部分)に似た味がします。絞り汁は、発熱時や暑気あたり、食あたりに効果があるといわれています。



 

 「トウガのおつゆ」は、高タンパクで低カロリーの鶏肉や肺の乾燥を潤し空咳やのどの渇きにいいとされるキクラゲも加えて煮ます。素材の旨味をいかしたあっさりとしたスープに、トロリとやわらかく煮えたトウガ。冷めてもおいしいおつゆです。

 

 夏バテなのか、熱がこもったような身体には、ナスを使った料理もおすすめです。身体のほてりやむくみをとり、血圧を下げるなどの薬効があるといわれています。ナスは代表的な夏野菜のひとつですが、収穫時期は梅雨の頃から秋までと、けっこう長く楽しめる野菜です。

 

 長崎には古くから栽培されてきた伝統野菜・地域野菜として、「長崎長ナス」、「枝折れナス」という品種があります。「長崎長ナス」はその名のとおり、細長いナス。「枝折れナス」は、枝が折れるくらい実がたくさんなるところから付けられた名称だそうです。



 

 農業の盛んな長崎県諫早地区を中心とした地域では、「ナスの味噌ころ」が昔ながらの惣菜のひとつ。一口大に切ったナス、タマネギ、厚揚げを油で炒め、野菜がしんなりしたところで麦味噌と砂糖少々を加え、炒め煮したもの。麦味噌の風味が素朴なおふくろの味です。



 

 店頭では、そろそろサトイモも出回るようになりました。サトイモは独特のぬめりに薬効があって、血中のコレストロールを取り除き、胃や腸壁の潰瘍予防にもいいといわれています。ですから、調理の際はぬめりを落としすぎないのがコツです。

 



 サトイモは、秋祭りや中秋の名月(十五夜)など、豊作を感謝する行事の際によく供えられます。中秋の名月が「芋名月」とも呼ばれる由縁です。長崎県島原地方などでは、家の外に醤油がめなどを置いていた時代には、ホクホクに煮付けた初物のサトイモを深皿に盛って、醤油がめの上に置き、名月へのお供えとしていたそうです。自然に感謝する当時の人々の素朴な姿や風景が目に浮かびます。



 

 旬の素材で作る昔ながらの日常的な料理には、季節ごとに変化する身体をいたわる力があるようです。秋の夜長にゆっくり味わいたいものですね。

検索