第533号【茶処・東彼杵町のおいしいもの】

 超大型台風21号の被害に合われた方々に心よりお見舞い申し上げます。

 

 暦を見ると、2週間後は立冬。刻々と深まる季節のなか、体は冬ごもりの準備がはじまっているのか、食欲は増すばかり。所用で出かけた東彼杵町(ひがしそのぎ・ちょう)で、おいしい出会いを満喫してきました。

 

 JR長崎駅から、快速シーサイドライナーで彼杵駅(東彼杵町)まで約1時間。東彼杵町は、長崎県一のお茶の生産量をほこる茶処で、蒸し製玉緑茶の「そのぎ茶」の産地として知られています。「そのぎ茶」は、隣接する嬉野市を中心に生産される「嬉野茶」として出荷されていた経緯がありますが、近年、「そのぎ茶」のおいしさとともに、ブランド名も広く知られるようになってきました。今年9月に開催されたお茶の日本一を決める「全国茶品評会」では、「蒸し製玉緑茶」の部門で、産地賞(1位)を受賞。さらに、個人でも「そのぎ茶」の茶農家の方が農林水産大臣賞を受賞し、「そのぎ茶」のおいしさを改めて全国に知らしめました。



 

 山あいに広がる茶畑の景色は、東彼杵町の原風景です。この時期のお茶の樹はツバキに似た白い花をつけるのですが、手入れが行き届いた茶園では、おいしい茶葉を育むため、つぼみのうちに摘んでしまうそうです。お茶の花は小ぶりでふっくらとして、うつむき加減に咲くきれいな花です。茶畑のそばを通りがかると、摘みそびれたお茶の花が数輪、秋雨に濡れていました。



 

 東彼杵町へ出かけたとき、必ず立ち寄るのが国道205号沿いにある道の駅「彼杵の荘(そのぎのしょう)」です。食事処では、定番の鯨肉入りの団子汁と炊込みご飯のセット(680円)をいただきました。波静かな大村湾に面した東彼杵町は、江戸時代、近海でとれた鯨の集積地として発展した歴史があります。鯨肉を使った食文化がいまも息づく土地柄なのです。道の駅では、鯨肉も売られていました。



 

 自然が豊かで農業が盛んな東彼杵。道の駅の商品は、おまんじゅうやもなかをはじめ、ソフトクリームや焼酎など、地元産の緑茶を使ったお菓子や飲料が目立ちます。また農業が盛んなまちとあって、季節の農作物も豊富。そのなかで、最近ではめずらしい「小栗(ささぐり)」を見つけました。小さな栗の実で、「柴栗(しばぐり)」と呼ぶ地域もあります。70歳前後の方たちが、口を揃えて、「小さい頃、食べてたわ」「山によく採りに行ってたのよ」と懐かしがります。店頭で「小栗」を買おうか悩んでいると、「通常の栗より、私は小栗のほうがおいしかと思うよ」と高齢の女性がすすめてくれました。湯がき終わりの頃に塩を入れるのが、おいしくなるコツだそうです。





 

 くいしんぼうな現代人を満足させる道の駅「彼杵の荘」。そのすぐ隣には、5世紀につくられたという前方後円墳の「ひさご塚古墳」があります。「ひさご」とは「ひょうたん」のことで、古墳は文字通りひょうたんを思わせる形をしています。ほかにも一万年以上も前の旧石器時代の遺跡も見つかるなど、東彼杵町は太古の昔から人間が暮らしやすい土地であったことを物語ります。そんな自然豊かな土地で育まれた飾らない町の雰囲気、人の優しさが、秋の心にしみる東彼杵町でありました。



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