第520号【サクラ、ツバメ、花まつり】

 3月末に開花した長崎のサクラ。1週間後には満開のときを迎えました。いまは、散りはじめた花びらがまちのあちらこちらで宙を舞っています。そんなやさしい春景色のなかで、何だか忙しげにビルの軒先と外を往復していたのがツバメです。巣作りの真っ最中でありました。





 

 くちばしで泥や枯れ草を運んで作るツバメの巣。ツバメは一度作った巣の場所を覚えているそうで、翌年、同じところにもどったとき巣が残っていれば再利用します。その場合は修復するだけなので1〜2日間ほどで完成。新しく作るとなれば1週間ほどかかるそうです。

 



 ところで、お天気に「ツバメが低く飛ぶと雨」ということわざがあります。これはちゃんと根拠のある話で、雨が降る前、湿度が高くなるとツバメの餌となる虫たちの羽が重くなって低いところを飛ぶようになり、それをねらってツバメも飛行するからだそうです。

 

 さて、長崎のサクラが満開のときを迎えたのは先週8日土曜日。この日は、お釈迦さまの生誕を祝う「花まつり」(灌仏会)の日でもありました。「花まつり」は、全国各地で古くから行われている仏教行事です。誕生仏(釈迦)を祀った花御堂を設け、参拝者は竹のひしゃくで甘茶を仏像の頭上からそそぎかけて生誕を祝います。



 

 いまから約2500年前の4月8日、北インドのルンビニーの花園でお生まれになったお釈迦さま。その生誕を祝う行事が、中国を経由して日本へ伝わったのは7世紀頃だそうです。ご存知の方も多いと思いますが、誕生仏の像が右手で天を指し、左手で地を指しているのは「天上天下唯我独尊」と宣言されたときのお姿をあらわしたもの。像に甘茶をそそぐのは、お生まれになったとき、甘露が産湯代わりに降り注ぎ、花々が芳しい香りを漂わせたという故事にちなんだものです。



 

 シーボルトのお抱え絵師として知られる川原慶賀は、江戸時代の年中行事の様子をいろいろ描き残していますが、そのなかのひとつに「花まつり」もあります。屋根に花が飾られた4本柱の花御堂や、参拝者が水盤の中央に立つ誕生仏に甘茶を注ぐ様子など、いまとまったく変わらない光景です。

 

 現在、長崎市内で行われている「花まつり」(主催:長崎釈尊鑽仰会・長崎市仏教連合会)では、毎年、花御堂を市内各所の商店街など全21カ所に設置し、参拝者に甘茶などを振舞います。こんなふうに各商店街と協力して行う「花まつり」は全国的にも珍しいケースだとか。お買い物がてら気軽に参拝の列に並ぶ人々の様子に、お釈迦さまが身近な存在であることが伝わってきます。



 

 「花まつり」の法要には、毎年、各宗派のお寺の住職が集いますが、そこには、カトリック長崎大司教の姿もあります。今回も「平和な社会を築くためにみなさまと一緒に考えたい」などと記されたローマ法王庁からのメッセージが読み上げられました。

 

 お釈迦さまの生誕を祝うために集った長崎の宗教指導者たち。宗教・宗派を超えて互いを尊重し、平和と幸福を祈願する姿を、長崎から発信しています。

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