第521号【初夏の陽気に包まれた長崎】

 桜前線がようやく北海道に上陸。一方、長崎はすっかり初夏の装いで、山々は新緑に覆われています。ゴールデンウィークに先駆けて、港では「長崎帆船まつり」が行われ、大勢の人出で賑わいました。青空の下、停泊する帆船の姿はとても優雅。外国からの観光客を乗せた大型客船も連日入港して、港はいつも以上に華やかに。長崎のまちは、一足はやく大型連休に突入したかのような開放感に包まれています。



 

 長崎港は帆船がよく似合います。江戸時代にこの港にやってきた唐船やオランダ船はもちろん帆船でした。そんなことを思いながら足元を見たら、シロツメ草がかわいい花を咲かせていました。シロツメ草はヨーロッパ原産の植物。その昔、人知れずオランダ船に乗り込み大海原を渡って日本へやってきました。



 

 というのも、シロツメ草は、交易品であった医療器具やガラス製品などのワレモノの間に詰められた干し草のひとつだったそうです。その種子がいつしか日本で花を咲かせるようになったといいます。どこかレンゲ草(ゲンゲ)にも似たシロツメ草が、「オランダゲンゲ」とも呼ばれるのは、そんなエピソードがあるからなのですね。



 

 長崎港から中島川沿いを上流に向かって歩いていると、久しく見かけなかったマガモのつがいを発見。さらに新顔のコサギもいます。中島川の生き物たちも、春から新旧入れ替わったようです。





 

 桃渓橋から川沿いを外れ、諏訪神社(長崎市上西山町)へ。参拝者を見守る大クスは、新緑をさやさやと揺らし、長坂(大門前の参道の階段)では、鯉のぼりが気持ちよさげに宙を泳いでいました。諏訪神社の端午の節句にまつわる行事といえば、5月5日「こどもの日」に行われる、「長坂のぼり大会」です。大人もきつい長坂を、子どもたちが一番札をめざして一斉にかけのぼります。その姿はとても微笑ましく、小さな感動も味わえます。



 

 諏訪神社からほど近い長崎歴史文化博物館の広場へ行くと、長崎式だという鯉のぼりが設けられていました。それは、支柱から斜めにかけられた笹の旗竿に鯉のぼりを下げた形で、風向きに合わせて旗竿が自在に動いて鯉がなびくだけでなく、風がなくても鯉がきれいに見えるのだそうです。



 

 ところで、端午の節句の行事食といえば、全国的に柏餅やちまきなどが知られていますが、長崎の場合は、「唐あくちまき」が郷土の味として食べ継がれています。唐あくで風味をつけたもち米を、棒状の木綿の袋に入れ、飴色に煮炊きあげたものです。糸を使って好みの大きさに切り、きなこや砂糖などをまぶしていただきます。唐あくは独特の風味があり、好き嫌いがあるかもしれませんが、クセになるおいしさです。子どもの頃から食べている人にとっては、ちまきといえば、これ。この時期は、地元の和菓子屋さんなどで手に入ります。

 



 いよいよはじまるゴールデンウィーク。たっぷり休める方も、そうでない方も、何かひとつ、この季節ならではの楽しい体験、おいしい味に出会えますように。

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