第519号【長崎から春便り】

 めきめき春めくこの時期は、五島産や島原産など新ものが出回るアオサがおいしい。温めたダシ汁にアオサを入れるとふわりと潮の香が広がって、思わず笑みがこぼれます。日本各地で採れるアオサ。いま、あちこちの食卓に旬を届けているのでしょう。



 

 温かな日が続いた3月中旬。眼鏡橋がかかる中島川沿いを歩けば、新顔の若いアオサギの姿がありました。後頭部から生えている黒く細長い羽毛やブルーグレーの翼がツヤツヤしています。そんなアオサギの脇を小さな黒い鳥がスーッと横切りました。ツバメです。今年の初見で、316日のこと。前日にはウグイスの初鳴きを耳にしたばかり。東北あたりではツバメ、ウグイスは4月に入ってからでしょうか。こうした鳥の初見、初鳴きは、季節の移り変わりを知る目安になります。地方気象台ホームページの「生物季節観測」などで確認することができます。



 

 中島川沿いから寺町通りへ。石垣の隅にスミレが咲いていました。スミレの花言葉は「小さな幸せ、誠実、謙虚」。小さく可憐な花なので、弱々しく思われがちですが、実は丈夫でたくましい野草。女の子に「スミレ」と名付ける親心がわかります。スミレは紫、白、黄色、ピンクなどの花色があり、種類も多いので図鑑で名前を調べる楽しみがあります。スミレのそばでは、セイヨウタンポポや西日本で見られるシロバナタンポポも花盛りでした。





 

 寺町通りの一角にある延命寺へ。ここは、1616年の建立時から長崎奉行所との関わりが深かったお寺です。その山門は、長崎奉行所立山役所の門が移築されており、現在、門扉のみ当時のものが残っています。参拝をすませ境内を散策すると、杏(あんず)の花が咲いていました。杏は、梅、桜と同じバラ科サクラ属の落葉高木。花は梅にも似て、実は梅よりもちょっと大きい。その種子は漢方で杏仁(きょうにん)と呼ばれ、咳止めに使われます。また、中国料理のデザートで知られる杏仁豆腐の原料でもあります。



 

 家々の庭先ではハクモクレンも開花しています。同じモクレン属のコブシにも似ていますが、花びらはやや大きく厚め。上を向いて咲くのが特長です。また、長崎は、日本一のビワの生産地だけあってか、庭木としてビワを植えているお宅が多いのですが、この時期から、実を害虫から守るために袋かけをした木を見かけるようになります。



 

 ジューシーでやさしい甘さのビワの果実は咳止めに効果があり、ビタミンACの相乗効果でお肌のトラブルにもいいといわれます。葉や種子もさまざまな薬効があり、古くから民間療法に用いられています。



 

 路地ビワは春の間においしく育ち、食べ頃を迎えるのは梅雨前。待ち遠しいですが、まずは春を満喫するのが先。数日中には、長崎の桜が開花しそうです。

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