第496号【教会のある里山の植物】
桜前線は青森あたりに到達したでしょうか。長崎のソメイヨシノは葉桜へ移行中。残りわずかな桜の花びらが静かに舞う春の休日、長崎市は外海(そとめ)地方へ足を運び、教会めぐりとのどかな里山の風景を楽しんできました。 西彼杵半島の南西部に位置する外海地方は、長崎駅から車で小1時間ほどのところにあります。半島の海岸沿いをいく国道202号線は、サンセットロードと呼ばれ、五島灘に沈む美しい夕日の名所として知られています。その道路沿いに、南から黒崎教会(上黒崎町)、出津教会(西出津町)、大野教会(下大野町)が点在。いずれも海に近い静かな里山の風景のなかに建っています。 「黒崎教会前」のバス停から石段を登ったところに建つ黒崎教会(1920年完成)。山の緑を背景にした煉瓦積みの外観が目をひきます。この地域は遠藤周作の小説『沈黙』の舞台となったことでも知られています。車から降りて最初に出迎えてくれたのは、イソヒヨドリです。教会の屋根の十字架の上から、まるでおしゃべりでもしているかのように鳴き声を響かせていました。鳥好きの知人によるとイソヒヨドリは、ヒトが鳴き声をマネすると、それに返答することもあるそうです。 黒崎教会から国道を北上。途中、遠藤周作文学館があり、その向こう側に丘の上に建つ出津教会(1882年完成)が見えてきます。出津教会は、風あたりの強さに耐えられるよう建物は低めで堅牢な設計になっているとのこと。出津文化村とよばれる教会周辺を散策していたら、ムサシアブミ(サトイモ科)を見かけました。黒紫色で縞模様のある花は、葉や茎とともにおおぶりで目立ちます。地域によってはレッドデータブックに記載される植物です。 出津教会から202号線をさらに北上して、山の中腹に建つ大野教会(1893年完成)へ。途中、山の斜面から海側を見渡せば、沖合にかつて炭鉱の島として栄えた池島が見えます。大野教会は石造りの小さな教会堂。出津教会もそうですが、フランス人のド・ロ神父が私財を投じ、信者さんたちの奉仕によって建造されています。ド・ロ神父は建築に造詣が深く、黒崎教会も敷地造成や設計などで関わっているそうです。 新緑と土の香に包まれた大野教会周辺の土手や道端では、紫色の小さな花をつけたキランソウ(シソ科)がたくさん生えていました。「ジゴクノカマノフタ」という別名を持つこの植物は、咳を鎮め、痰をのぞき、解熱や健胃の効果もある生薬にもなるとか。ちょっと怖い別名は、「病気を治し、地獄の釜に蓋をする」という意味なのだそうです。 近くには、四方竹(しほうちく)も生えていました。中国南部が原産の細めの竹で、茎部分が四角なのが特長です。長崎市では鳴滝塾跡(現・シーボルト記念館)の庭園の一角でも見られます。めずらしい竹だと思っていたら、高知県にも生えているらしく、煮物や炒めものなどにして食べている地域があるそうです。四方竹のタケノコは秋採れ。アクが少なく、歯ざわりも良いとのこと。江戸時代、密かに信仰を続けた大野教会周辺の集落でも食べられていたかもしれません。
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