第493号【桃カステラ、寿桃、マーラカオ!】
三寒四温。日によって大きく揺れる気温差にひとの体はとまどいがち。スズメやイソヒヨドリ、ムクドリなど、日差しのなかで遊ぶ中島川の鳥たちも、まだまだ体をふくらませて防寒体制。甲高くチィー、チィーとさえずっているのはメジロでしょうか。名前の由来となった目のまわりの白い輪と黄緑色のきれいな羽を生垣からのぞかせていました。ここ数年、住宅街でもよく見かけるようになったメジロ。冬場、庭の小枝にリンゴやミカンを刺していると、目ざとくやってくるかわいい小鳥です。メジロの鳴き声は、「長兵衛、忠兵衛、長忠兵衛(チョウベエ、チュウベエ、チョウチュウベエ)」と聞こえるといわれ、鳥好きの人は、その声を頼りに姿を探します。ただ、この長めの美しい鳴き声はもうちょっと温かい季節にならないと聞けないようです。
長崎のまちは、「長崎ランタンフェスティバル」が終わったばかり。期間中、厳しい寒さに見舞われる日も多かったのですが、今年も大勢の人々がランタンの下に集いました。中国ゆかりのさまざまな催しが行われるなか、孔子廟で連日開催された中国変面ショーは、一瞬で仮面が変わる妙技を間近で観られ、大盛況でした。
ランタンが片付けられ静かになった長崎のまちをズンズン歩けば、気持ちはすでに次の季節へ向かい、あちらこちらの店頭に出ている「桃カステラ」が気になります。
縁起物の長崎の郷土菓子、桃カステラ。南蛮貿易時代に伝えられたカステラの生地の上に、桃をかたどった砂糖細工がのったお菓子で、長崎では桃の節句や出産祝いの贈答に用いられます。桃は不老長寿の象徴、魔除けのフルーツとされ、中国では桃の形をした「寿桃(スートゥ)」というおまんじゅうが、いまも長寿のお祝いや結婚式などのおめでたい席に用いられるそうです。「寿桃」は、長崎では「桃まんじゅう」と呼ばれ、黒あんや白あんのおまんじゅうと並べて売っているお店もよく見かけます。中国の文化が色濃く残る長崎ならではの光景かもしれません。
中国ゆかりのお菓子といえば、「マーラカオ(馬拉糕)」があります。中国語の「馬拉」は、「マレーシア」を意味し、「糕」は、蒸しケーキのことだそうです。生地がふんわりしているのはカステラと同じですが、卵の風味が効いたカステラとちがい、こちらは、調味料に「しょうゆ」や「酢」を使ったり、またはちゃんぽん麺にも使う「かん水」を用いたりします。これらの調味料が、あの茶系の色合いとアジアらしい香りを生んでいるのです。
ほおばれば、どこか懐かしい風味と味わいがする「マーラカオ」。日本の食文化が、中国の影響を大きく受けた証のひとつかもしれません。