第503号【夏到来!鳴滝で司馬作品と出会う】
先週、梅雨明けした九州。本格的な夏がはじまって、連日セミの鳴き声で目を覚ますという方も多いことでしょう。日中、暑さを逃れひと息ついた公園の木陰で、ふと、幹に目をやると、シャワシャワシャワと鳴くクマゼミが何匹もいて、びっくり!足元を見るとセミが抜け出た穴があちらこちらに。持っていた日傘を差し込んで深さをさぐったところおよそ5〜6センチ。この土の中で数年を過ごしたことを思い再びセミを見上げると、いきなりオシッコをかけられ、あやうくシリモチをつきそうになりました。
家事や仕事に明け暮れる大人になっても、セミの鳴き声に包まれると、童心に返り当時の夏の記憶が鮮やかによみがえることがあります。昆虫採集に夢中になったこと、毎日のように海で泳いだこと、蚊帳のなかでお化けの話を聞かされ泣く泣く眠った夜のこと…。あなたはどんな夏の思い出がありますか。
長崎のまちを歩けば、夏を告げるサルスベリがあちらこちらの庭先で花を咲かせています。眼鏡橋がかかる中島川のアオサギは、水しぶきを浴びて気持ち良さそう。中島川の支流のひとつが流れる鳴滝地区へ足を運べば、山々の緑は強い日差しのもとでいっそう濃く見えます。足元の畑には、俳句で秋の季語とされる、「えのころぐさ」(ねこじゃらし)が生い茂っていました。ちなみに、来月7日は「立秋」です。
野山はめくるめく季節を教えてくれます。この暑さも、ずっと続くわけではありません。ならば、季節に寄り添いつつ、暑さを忘れる日々の楽しみを見つけながら過ごしたいものです。この夏、「シーボルト記念館」で開催中の企画展「司馬遼太郎と幕末維新の群像」は、司馬作品のファンや幕末・明治の歴史に関心のある方々にとっては、そんな楽しみのひとつになるのではないでしょうか。
今年、没後20年を迎えた司馬遼太郎(1923-1996)。『竜馬がゆく』、『坂の上の雲』など名作の数々を世に送り出し、いまも新たなファンを生みながら読み継がれています。長崎やシーボルトにとくにゆかりのある作品としては、『竜馬がゆく』のほか、日本近代兵制の創始者・大村益次郎を描いた小説『花神』、医療の視点で幕末から明治維新の時代を描いた『胡蝶の夢』などがあります。
この企画展では、そうした作品の引用文に、シーボルトの娘イネ、シーボルトを尊敬したポンペ、長崎で蘭学を学び大坂で「適塾」を開いた緒方洪庵、そして坂本龍馬など、小説に登場する人物の資料を添えて紹介しています。登場人物にまつわる史実を知れば、初めて読む方はもちろん、既読の方も、より深く、広く小説を楽しめると思います。
かつて西欧の医学を学ぼうと日本各地の俊英たちが足繁く通った「鳴滝塾」。その跡地にたつ「シーボルト記念館」では、緑陰に包まれたシーボルトの像が迎え入れてくれます。「司馬遼太郎と幕末維新の群像」は小さな企画展ですが、今回のような司馬作品関連の展示は長崎では初めてのことだとか。平成28年8月28日(日)まで開催です。
◎取材協力:シーボルト記念館 (長崎市鳴滝2-7-40)TEL095-823-0707
月曜日休館