第502号【ハスの花咲く唐比へ】

 泥水のなかからスクスクと長い茎を伸ばし白やピンクの多弁の花を咲かせるハス。仏教にゆかりの深い花として知られていますが、その姿はやはりどこか神秘的で美しい。清しい芳香とともに、古くから人々に愛されてきた花です。



 

 ハスの名所として知られる「唐比ハス園」(長崎県諫早市森山町唐比)へ行ってきました。「唐比ハス園」は、橘湾に面した唐比海岸そばの唐比湿地公園内にあります。長崎市街地からは、国道251号線を雲仙方面へ走るバスに乗って小1時間ほど。諫早駅からは唐比行きのバスで約40分です。



 

 「唐比ハス園」の広さは約2.5ha。地元のボランティアグループが長年コツコツと手入れを続けながら、その規模を徐々に拡大してきたそうです。ハスの花と同じくらいの高さに木造りの通路が張り巡らされているので、どこからでもハスを一望できます。園内には十数種類のハスと数種類のスイレンが植えられていて、ハスは8月上旬まで、スイレンは初秋まで楽しめるとのことでした。



 

 この日、花を咲かせていたのは、「唐比古代ハス」、「ミセススローカム」、「王子ハス」、「誠ハス」など。色合いや花弁の形にそれぞれの美しさがあります。おおぶりのハスの花を引き立てているのが、さらに大きな緑の葉っぱです。露を受けて水玉を転がしている光景が涼しげでした。



 

 花びらを落とし、花托があらわになったものもありました。花托の表面に空いた複数の小さな穴は蜂巣を思わせます。これが、ハスの古名である「ハチス」の由来ともいわれています。ちなみに花托の穴は、その中で育っているハスの実の通気口の役目を果たしています。ドングリくらいの大きさに育つハスの実は、自律神経を整えたり、疲労回復にも効果があるとして薬膳の食材として利用されます。地下にのびる茎は、おなじみのレンコン。また葉も食用に用いられ、花びらも花茶として楽しめます。ハスは花も実も葉も根も利用できるすごい植物なのです。





 

 すごいといえば、ハスの生命力です。その強さを証明するきっかけのひとつとなった「大賀ハス」を園内で見ることができました。美しいピンク色をしたこのハスは、戦後、土器や石器が出土する落合遺跡(千葉県)で発掘されたハスの実を、植物学者の大賀一郎博士が発芽に成功させたものです。その実は、二千年前の弥生時代のものと推定されるものでした。



 

 ハス園を訪れる際のポイントは、午前中に楽しむということ。「花は日の出とともに咲きはじめて、昼を過ぎたら閉じてしまうからね」と近くで農作業をしていた地元の方が教えてくれました。

 

 島原半島に入る直前に位置する「唐比ハス園」一帯は、「島原半島ジオパーク」に含まれています。「島原半島ジオパーク」とは、地球のダイナミックな営みを観察できる公園のことで、海岸や温泉、田畑など、たくさんのジオサイトが点在するネイチャースポットです。ここ唐比湿地からは25万年前の火山灰も見つかっています。また、ハス園に隣接する唐比海岸は、橘湾と島原半島、天草の島々を一望する眺めがすばらしく、新観光百選にも選ばれています。とにかく、静かでのんびりできる唐比。この夏、足を運んでみませんか。



検索