第677号【初夏の花便り グラバー園のバラ】
朝晩は肌寒さが残るものの日中は初夏の陽気。長崎の市街地を囲む新緑の山々から心地よい風が吹き抜けていきます。諏訪神社(長崎市上西山町)に参ると、バナナに似た甘い香りが鼻先をくすぐりました。これは、カラタネオガタマの花の香り。日当たりのいい参道脇で、たくさんの花を付けていました。 長崎の街のあちらこちらで青い実を付けたビワの木を見かけるようになりました。固い実は次第に熟し、梅雨直前に食べ頃を迎えます。昔からビワは、実も葉も種も薬効があるとして、民間療法に用いられてきましたが、日差しに向かって、たわわに実を付ける様子を見ると、確かにパワーのある植物だなと思います。ちなみに、友人宅では庭になったビワの実を食べた後、その種を使って焼酎漬けを作っています。しばらく漬け込んで琥珀色になった焼酎は、あせもや筋肉痛、傷跡の痛みなどに塗布するといいとか。友人は、「種を捨てるのがもったいない」と、毎年欠かさず作っています。 さて、ゴールデンウィークの最終日、バラが見頃を迎えたグラバー園へ行って来ました。幕末・明治期に建てられた洋風建築物と石畳や石段の通路が、異国情緒あふれるノスタルジックな景観を生み出しているグラバー園。訪れた人々は、色とりどりのバラの芳香に足を止めながら、散策を楽しんでいました。なかでも、旧リンガー住宅前では、長崎港を背景に美しいバラを楽しめ、写真を撮る人の姿が後を絶ちませんでした。 長崎港を望む丘の斜面に造られたグラバー園。園内には、もともとこの丘に自生していた樹木も多く残され、美しい景観を創っています。生い茂る新緑の間から見えたのは、長崎港の対岸にある三菱長崎造船所の「ジャイアント・カンチレバークレーン」です。1909年に日本で初めて建設された電動クレーン(英国アップルビー社製)で、いまも現役で使用されています。150トンもの荷重を吊り上げる能力は、当時のままだそうです。 「ジャイアント・カンチレバークレーン」は、2015年に登録された世界文化遺産「明治日本の産業革命遺産」の構成資産のひとつです。幕末から明治期にかけて、造船・炭鉱を中心に日本の近代化を支えたその遺産群は、グラバー園にもあります。それは、日本最古の木造洋風建築として知られる「旧グラバー住宅(1863年建設)」です。日本の近代化に大きく貢献した英国人貿易商のトーマス・ブレーク・グラバーは、ここに住まい、ビジネスの拠点としました。 幕末から明治へ、激動の記憶を秘めた旧グラバー住宅。ここで、幕末の志士らとグラバーとの間で、緊迫したやりとりがあったかもしれません。園内では、そうした歴史など知る由もない美しいチョウたちが、蜜を求めて花から花へ飛び交っていました。
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