第656号【8月愛と平和と海辺】

 真夏の青空の下、長崎のまちのあちらこちらでキョウチクトウの花が満開を迎えています。79年前の89日の朝、何気なくこの花を眺めた人もいたことでしょう。その数時間後に、原爆が投下されることなど知る由もなく…。長崎港にそそぐ浦上川沿いを歩きながら、10数年前に聞いたある男性(80代)の話を思い出しました。「原子爆弾が落とされた直後、この川沿いを、人探しのために歩きまわった。そのときのことが僕の原体験になっている」。この世のものとは思えぬ悲惨な様子をポツリ、ポツリと言葉少なに語った男性。この方も原爆による癒えない心の傷をずっと抱えて生きてきた人でした。



 

 もし、悲しい土地の記憶を癒すものがあるとしたら、それは、愛と平和。けして、大それた話ではなく、日々のあれこれを味わい、楽しみ、顔を合わせる人たちと、なごやかに笑顔で過ごす、それも愛と平和のカタチのひとつです。

 近年、再開発がすすみ、人々が憩い、楽しめる素敵な街並みが着々と築かれている浦上川周辺。そのベースには、平和を強く希求する長崎市民の思いがあります。近い将来、世界中から多くの笑顔がこの街に集い、それぞれの日常を彩り豊かに過ごしている、そんな街の姿をとおして、愛と平和を発信し続けることができたらいいですね。



 

 さて、例年にない酷暑となった2024年の夏。外出もおっくうになりがちでしたが、ちょいとバスに乗りこんで、海辺へ出かけてきました。行き先は「かきどまり白浜海岸」(長崎市柿泊町)。長崎市の北西部に位置する海岸で、映画のロケ地にもなったことで知られています。アクセスは、長崎駅から「柿泊」行きのバスで約30分。「弁天白浜」バス停で下車。長崎へ観光に訪れた方でも、気軽に足を伸ばせる海辺です。





 

 西側に大海原をのぞむ「かきどまり白浜海岸」は、夕陽の名所としても知られています。海岸線に沿って、「弁天白浜」と「小白浜」と呼ばれる小さなビーチが連なり、透明度の高いエメラルドグリーンの海がとてもきれいでした。かつて、夏場は海水浴場として開設されていましたが、現在は監視員がいないため遊泳禁止に。波打ち際で砂遊びをする親子の姿や岩場で景観を楽しむ人の姿がありました。





 

 「弁天白浜」から、「かきどまり漁港」まで続く遊歩道が整備されていて、安全に景観を楽しむことができます。西彼杵半島につながる海岸線は、砂浜だけでなく岩場もあり、けっこう複雑多岐な表情です。山地が外洋に面した地形ということもあり、長い年月をかけて波の浸食によって創られた「海食崖」や「海食洞門」も見られ、ダイナミックな地球の鼓動を感じることができました。





 

 リンゴをかじった形に見えることから地元では「リンゴ岩」と呼ばれるユニークな姿の岩石がありました。ちなみに、地質学では波の浸食に抵抗して岩石の柱や塊が残ったものを「離れ岩」といい、そのなかで、「リンゴ岩」のように根元の部分がえぐられ、くびれた形になっているものを、「茸岩(きのこいわ)」というそうです。「リンゴ岩」は遠くから見るとくびれの細さに崩れそうに思えますが、間近で見ると、案外しっかりしているような印象でした。


 

「かきどまり白浜海岸」には、遊歩道沿いにキャンプエリアやバーベキューエリアも設けられています。利用にあたってはルールを守ってお楽しみください。


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