第654号【水無月(みなづき)の花々】

 初夏のすがすがしい風が吹き抜けた61日の朝、長崎では秋の大祭「長崎くんち」の稽古始めとなる「小屋入り」が行われました。この行事は、その年に演し物を奉納・披露する踊町(おどりちょう)の世話役や出演者らが、諏訪神社(長崎市上西山町)と八坂神社(長崎市鍛冶屋町)で清祓いを受け、無事に大役を達成できるよう祈願するものです。今年、7つの踊町は朝から列をなして次々に神社へ。シャギリの音色が街中に響きわたりました。





 

 今年の「踊町:演し物」は、次のとおりです。「八幡町:山伏道中・剣舞・弓矢八幡祝い船」、「麹屋町:川船」、「銀屋町:鯱太鼓」、「西濵町:龍船・二胡演奏」、「興善町:本踊(石橋)」、「万才町:本踊」、「五嶋町:龍踊」。コロナ禍の影響で中止がつづき昨年4年ぶりに行われた「長崎くんち」。通常なら7年に一度めぐってくる踊町の役割も10年ぶり。踊町も観客も、ひときわ思いのこもった「長崎くんち」になるに違いありません。

 





 さて、「小屋入り」の日は、諏訪神社のザクロの花が満開でした。6月も中旬に入ると、アジサイはもちろん、ユリやアガパンサス、クチナシなど、色とりどりの初夏の花々を見かけます。出島に近い街角では、ひときわ個性的なトケイソウが咲いていました。





 

 平らな花の真ん中に突き出た雄しべと雌しべ。その姿が時計の文字盤を思わせることから名付けられたというトケイソウ。ペルー、ブラジル原産のつる性多年草で、江戸時代の享保年間(1716-1735)に日本へ渡来したといわれています。ひとくちにトケイソウといっても、たいへん種類が多い植物だそう。では、江戸時代に渡ってきたのは一体、どんなタイプだったのでしょうか。色つきの植物図鑑として日本で初めて出版されたといわれる、『本草図譜』(1830年刊/著者:岩崎灌園)には、今回見かけたものと同じ姿のトケイソウが描かれていました。



 

 ところで、夏の暑さ対策のひとつに、「緑のカーテン」というものがあります。窓際につる性の植物を育てることで、日差しをやわらげたり、室内に入る風をひんやりとさせたりするものですが、このトケイソウも「緑のカーテン」として利用できるそうです。



 

 中島川上流にかかる石橋、桃渓橋(ももたにばし)。この時期の夜、橋の上からそっと川端に目をやると、数匹ですがホタルが飛んでいます。橋の下には小規模のカンナの群生があり、6月から10月の花期になると、鮮やかな橙色の花を次々に咲かせます。カンナはもともと丈夫な植物ですが、桃渓橋のカンナも生命力にあふれ、大雨や台風時の濁流に激しくなぎ倒されても、バッサリと刈り取られても、必ず復活し大ぶりの花を咲かせます。ときに小鳥に蜜を与えながら、炎天下にたくましく育つカンナ。私たちもカンナのように、この夏を乗り越えられたらいいですね。





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