第593号【タケノコの季節です】
窓から見える公園の桜は、すっかり葉桜に。数日ぶりに買いものに出ると、道すがらペラペラヨメナのまわりをシジミチョウが飛び交う姿に出合い、気分がほぐれました。お店に入ると、食料品はいつもと変わらない品揃え。野菜や果物などみずみずしい旬の食材も十分にあり、変わらぬ日常を支えてくれるもろもろの方々に、感謝の気持ちでいっぱいになりました。
さて、いろいろ出回っている旬の食材のなかで、存在感を放っていたのはタケノコです。タケノコは、パック入りの水煮が一年中手に入りますが、やはり独特の香り、歯ごたえは旬のものにはかないません。タケノコは、掘り出してから時間が経つほどエグミが増します。なので、朝掘りのものを手に入れ、できるだけ早く茹でてアク抜きをするのが、おいしくいただく秘訣です。
アク抜きをしたタケノコは、いろいろな料理にして楽しみますが、まずは、何と言ってもタケノコご飯ですよね。タケノコご飯は、かすかに土の香りがして、しみじみと郷愁を感じる味わいです。昔からこの時期の日本人の食卓にあがり、季節のめぐりを伝えてきました。手のひらで叩いて香りを引き出した山椒の芽を添えていただくのが定番スタイル。子どもたちは、山椒の芽は苦手のようですが、酸いも甘いも噛み分ける大人になれば、そのクセのある香りがないと物足りなくなるはずです。
タケノコは、タケノコ汁や土佐煮、若竹煮など、煮物や汁物にとレパートリーが広い食材です。また、皿うどんにもよく使われる具材のひとつです。旬のタケノコやキャベツを使った春限定の皿うどんはひと味違います。ちなみに皿うどんは、具材の種類や量など、けっこう自由に好みを反映できます。春に限らず、四季折々に旬の具材を取り入れて、いつもの皿うどんを季節の一品として楽しんでみませんか。
さて、タケノコは文字通り竹の子どもです。日本で竹といえば、孟宗竹(もうそうちく)、真竹(まだけ)、破竹(はちく)が知られています。現在、私たちが主に食べているのは、孟宗竹(モウソウチク)です。孟宗竹は全国各地に植えられていますが、実は中国原産で江戸時代に渡来したもの。琉球を経て薩摩に入ったという説や黄檗宗の隠元禅師がもたらしたという説、また、京都の黄檗宗の僧が中国から持ち帰ったなど、伝来には諸説あり定かではないようです。
ところで、この時期の竹林に行くと、葉は枯れたように黄色くなっています。これはタケノコに栄養分がいくためだとか。多くの木々が新緑をつける季節に、黄葉する竹の景色を、俳句では、「竹の秋」という春の季語で表現します。余談ですが、タケノコやタケノコご飯は、春の味覚と思う方も多いと思いますが、俳句では夏の季語になっています。実際に、タケノコが出回るのは春の終わり頃から初夏にかけて。ときおり、夏めいた日差しや風を感じる頃ではあります。
さて、たまの買い物に出かけた際、まちなかで、新しい市役所の建設工事(長崎市魚の町)や、新幹線の線路の橋桁工事(長崎市八千代町付近)を見かけました。長崎の未来のまちのかたちは着々と築かれているよう。さまざまな制限があっても、よりよい未来を願う気持ちはみな同じです。こういうときだからこそ見える大切な景色もあるはず。状況を前向きに受け入れて、明るい明日につなげていきたいものですね。