第623号【晩秋と初冬が重なる風景】
11月はじめ長崎駅近くにある本蓮寺(長崎市筑後町)を訪れると、銀木犀(ギンモクセイ)が白い小花を咲かせ、あたりに芳香を漂わせていました。それは、同じモクセイ科で、花がオレンジ色の金木犀(キンモクセイ)よりも、控えめな香り。金木犀は、銀木犀よりも1週間ほど先に開花しましたが、例年より10日ほど遅い10月下旬でした。長崎のまちを包み込んだ独特の甘い香りに、ようやく秋を感じた方も多かったことでしょう。
銀木犀の花言葉は「初恋」だそう。かわいい白い小花とやわらかな香りが、そんな言葉を彷彿させるのでしょう。一方、金木犀の花言葉は、「謙虚」「気高い人」「陶酔」などがあります。その強い芳香の印象とは裏腹に、花自体はとても小さいことから、「謙虚」という言葉につながったといわれています。
庭木などで見かけるのは、圧倒的に金木犀のほうが多いように思えます。ちなみに、園芸業界で「モクセイ」といえば、「銀木犀」を指すそうです。というのも、もともと金木犀は、銀木犀の変種として生まれたものだからです。原産はいずれも中国で、江戸時代に日本に渡来したといわれています。
さて、長崎のまちの樹木に目をやれば、イチョウの黄葉はまばらで、いつもよりやや遅れているよう。桜の木は、紅葉を楽しめないまま落葉したものが目立ちます。ここ数年、晩秋と初冬が重なり、秋が短くなっているように感じる中、これまでの秋の風情とは少しずつ違ってきている様子が伺えました。
この時期らしい草花を探していると、長崎駅前の斜面地で自生と思われる木瓜(ボケ)の花と実を見つけました。木瓜はバラ科の落葉低木。「木瓜の花」は、俳句では春の季語ですが、九州のような暖かい地域では、冬場に咲くものもあり、「寒木瓜」「冬木瓜」という冬の季語で表現されます。
木瓜は、花の後に直径5〜10センチほどの黄色い実を付けます。細い枝にいきなり実がくっついているのが特徴的です。その実が、瓜(うり)に似ていることから、木になる瓜(うり)を意味する「木瓜」の名前が付いたそう。ちなみに、「木瓜の実」は秋の季語。熟した果実は、滋養強壮、整腸作用のある果実酒としても楽しめます。
さて、近頃の気候変動は、渡り鳥の渡来時期にも影響を及ぼすかもしれないと気になっていましたが、秋に大陸から日本に渡ってくるジョウビタキの個人的な観測による初見は、例年並みといったところ。10月末に浦上地区の住宅街でかわいいメスの姿を確認しました。
11月7日立冬の日の夕暮れ時、西の空に宵の明星(金星)と新月から2日目の細い月が出ていました。翌日の昼間には、三日月が金星を隠す天体ショー「金星食」が見られるはずでしたが、長崎はあいにくの曇り空でありました。
今年の金星は、5月頃から夕方になると西の空で輝いています。ひときわ明るく輝いているのですぐに金星とわかります。12月頃まで見られるので、ぜひ、日没後に見上げてみてください。新型コロナのことも、一日の疲れもひととき忘れる美しさですよ。