第617号【梅雨入り前の長崎】
コロナ禍に迎えた2度目の春は、しだいに雨の季節へ移ろうとしています。先週5月5日「子どもの日」は、二十四節気でいう「立夏」でした。さわやかで過ごしやすい時候ではありますが、この日、沖縄・奄美地方は平年より1週間ほど早く梅雨入り。長崎を含む九州北部地方は、沖縄に遅れること約1ヶ月弱で梅雨入りするのが常ですが、季節は、前倒し気味に移り変わっているので、梅雨入りも早くなりそうな気配。長崎ではアジサイが色づきはじめました。
季節が早めに巡っていることが、花々の開花の状況でわかります。例年なら5月初旬に開花して、数日間だけ芳香を放つ一覧橋(中島川の石橋群のひとつ)のたもとのクスノキが、今年は4月下旬に満開になりました。ところで、クスノキの花は見たことがないという方もいらっしゃるかもしれません。クスノキは、春の終わり頃から初夏にかけて、黄白色の小さな花を無数につけますが、新緑の輝きにまぎれ、花は見過ごされがちです。その香りは、クスノキの枝や幹を原料に作られる樟脳とはまた違った、清涼感のある甘く心地いい香りです。
さて、長崎では、ザクロの花も例年より早く開花しています。毎年、6月1日の「小屋入り」(「長崎くんち」のはじまりを告げる行事)が近づくと咲きはじめるのですが、今年は4月末頃につぼみが開きはじめました。個人的にザクロの開花を確認する標本木としているのは、「長崎くんち」の舞台となる諏訪神社の参道の一角に植えられたものです。
先月、今年の「長崎くんち」の奉納踊りと御神幸が、新型コロナの影響で、昨年に続いて中止にしたと発表がありました。来年に繰り延べとなった踊町の方々が、この2年間のきびしい状況を乗り越え、来年すばらしい奉納踊を見せてくれることを楽しみにしたいものです。
季節が前倒し気味といいながら、例年通りの様子を見せているのが、路地ビワです。人の手入れが行き届かない川端や道脇などで自然に育ったビワの木が、梅雨入りを前に橙色の果実をたわわに実らせています。茂木ビワの産地でもある長崎は、毎年、大型連休が終わる頃から、店頭に並ぶビワの数がぐんと増え、お値段もお手頃に。ビワはやさしい甘さの果汁がたっぷりで、薬膳では、咳止めや熱が出て喉が渇くときなどに用いられます。葉や種にも薬効があることが昔から知られ、ビワ茶などは疲労回復に効果があります。
話は変わりますが、大型連休中、思いがけない場所でミサゴと思われる鳥を見かけました。そこは、長崎駅前の高架広場。餌を見つけたのか、急に上空から降りてきて低空飛行。餌を取り損ね上空へ上がったかと思うと2度旋回、再び下降しホバリングのような動きを見せ、床面に向かってヒュッと降り、その後、駅舎側へと飛び去っていきました。顔からお腹にかけて白かったので、トビではありません。あわてて写真を撮ったので、種類を見極められるほど詳細な写りでないのが残念です。
数ヶ月前ミサゴを見かけたのは、野母崎の海でした。ミサゴは海岸や大きな河川の近くに生息するタカの仲間。長崎駅は、海や河川が近いとはいえ、人や車の喧騒が絶えません。そんな場所でトビにも似た大胆な行動を見せたのには驚かされます。ただ、後になって知ったのですが、小動物を餌にすることが多いタカの仲間のなかで、ミサゴは、ボラやトビウオ、イワシなど、魚を餌にするそう。今回見かけた鳥は、広場の小動物らしきものを狙ったと思われるので、ミサゴではないかも…。では、いったい何という鳥だったのでしょうか。次の偶然の出会いを待ちたいと思います。