第612号【春がはじまる2月】

 今年の節分は、124年ぶりの22日でしたね。各地の神社では、新型コロナウイルス感染予防対策を万全にして、古いお札やお守りをお焚き上げする火焼神事(ほやきしんじ)が行われました。長崎市民の総鎮守・諏訪神社では、毎年賑やかに行われてきた節分祭の年男・年女による豆まき行事は中止となりましたが、火焼神事は例年どおり踊馬場で行われました。人々がとても静かに炎を囲んでいたのが印象的でした。



 

 立春(23日)が過ぎてから、九州はおおむね晴天が続いています。春めく日差しのなか、ぐんと気温が下がる日もありますが、そうやって春がやって来るのですね。気象で春を告げる現象のひとつに、「春一番」がありますが、これは立春から春分の間に、初めて吹く南寄りの強風のこと。「春一番」が吹くと日本海の低気圧が発達し高波や激しい雨などの荒れた天候になります。今年、関東地方では、立春の翌日に「春一番」が来ました。これは、過去最も早い記録だそう。実は九州北部では、立春前の21日に「春一番」を思わせる強風に見舞われました。もしかして、季節は前倒しで巡っているのかもしれません。

 

 もうひとつ、春によく見られる気象現象に、「黄砂」があります。「黄砂」は、中国大陸の黄土地帯で多量に吹き上げられた砂じんが、偏西風に乗って日本へ飛来するものです。砂じんは大気中に浮遊、あるいは地上にふりそそぐため、空気が埃っぽく感じられ、視界も悪くなります。この「黄砂」が、数日前の2月7日に飛来。長崎のまちは、うっすらと黄色がかった大気に包まれました。





 

 「黄砂」のように、中国大陸から渡って来たものと言えば、長崎には数え切れないほどありますが、節分に食べられる長崎の伝統野菜、紅大根(あかだいこん)もそのひとつです。一説には江戸時代に中国から渡り伝えられたといわれています。紅色をした細長い姿が「赤鬼の腕」のようだとして、食べれば鬼退治になる、子供たちがたくましく育つとして、昔から節分の日には神棚に供えられ、その後、甘酢漬けなどにしていただきました。



 

 紅大根は、大根とはいってもカブの仲間。2ミリほどの厚さの紅い皮の下は、真っ白です。甘酢漬けにすると、皮の色素がより鮮やかになり白い部分も真っ赤に染めてしまいます。この紅色は何かと体にいいアントシアンの色素です。また大根と同じように豊富に含まれたジアスターゼ等の酵素が消化を助けます。



 

 節分の日に赤大根とともに食べられるのが、地元で「ガッツ」と呼ばれ親しまれている、金頭(かながしら)という魚の煮付けです。その名前からしてお金が貯まるという縁起もの。内臓をとらずまるごと煮付けていただきます。アラカブにも似たダシがよく出るので、味噌汁にしてもおいしいです。



 

 「紅大根の甘酢付け」や「金頭の煮付け」のように、大きな時代の危機や変化をいくつもくぐり抜けながら、長い間、食べ継がれてきた行事食は、全国各地にいろいろと残っています。それを、人々がけして手放さなかったのは、季節感や味わいもさることながら、その行事食に込める人々の願いが、どんな時代も切実で変わらぬものであったからかもしれません。

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