第611号【長崎のウメ、咲きはじめました】
季節はまだ「寒の内」。九州では、積雪のあと3月のような陽気に汗ばむ日もあるなど、寒暖の極端な天候が続いています。そうしたなか、季節は着々と春へ向かっているようです。地元の野菜が並ぶお店で、「ふきのとう」を見かけました。雪解けの頃に芽を出し、いち早く春を告げる「ふきのとう」。その独特の芳香と苦味をさっそく和え物にして楽しみました。
早春といえば、そろそろウメも咲きはじめる頃ですね。ちなみに、昨年の長崎のウメの開花日は1月16日。今年の発表はまだのようです(長崎地方気象台HPより)。余談ですが、ウメやソメイヨシノなどの開花やウグイスの初鳴きといった季節によって変化する植物や動物の状態を観測する「生物季節観測」について、昨年末にちょっと寂しいニュースがありました。気象庁で長年続けてきた「生物季節観測」が、その対象となる全57種類の動植物のうち、51種類が昨年いっぱいで廃止に。ウメ、サクラ、アジサイ、ススキ、カエデ、イチョウの6種類の植物の観測は続けられるそうです。
さて、ウメの観測が続けられることにホッとしながら訪れたのは、「松森天満宮」(長崎市上西山)です。緑豊かな境内の静けさを楽しみながら本殿へ向かうと、新型コロナウイルス感染予防のため、手水鉢のひしゃくと、参拝時に鳴らす鈴の緒がはずされていました。ここの手水鉢は植物をかたどったような文様が美しいことで知られています。昭和13年発行の『長崎市史地誌篇神社教会部上巻』にも「其の形状は朝顔花を模し構造が巧妙であるので観賞を惹いて居る」と紹介されています。コロナ以前は、鉢の中央に竹を渡してひしゃくが置かれていましたが、思わぬ事情でその文様全体を見ることができました。
菅原道真公を祀る松の森天満宮。この時期は、受験生の姿をよく目にするのですが、今年はコロナ禍だからか、学生さんは少ないよう。「代わりに親御さんがいらしているようですよ」と神社の方がおっしゃっていました。
参拝を済ませたら、のんびりと境内をひとめぐり。点在する楠の巨木(市指定の天然記念物)は参拝者を温かく見守るかのよう。本殿そばに植えられたウメの木は数輪が開花し、たくさんの蕾はいまにも咲きそうなふくらみでした。ウメよりも数週間ほど早く開花したロウバイも、香りは弱くなっていましたが、花に顔を近づけると水仙に似たさわやかな芳香が残っていました。「今年は天候が不順で、ロウバイにしてもウメにしても開花や、見頃については、なかなか予測がつきにくいのですよ」と神社の方。
本殿の裏手に回ると、大きく育った柑橘の木が今年もたくさんの実を付けていました。その実は、温州みかんくらいの大きさで色はレモンに近い。長年気になっていたその種類を神社の方にうかがうと、「以前、調べてもらったのですが、どうも、ゆうこうらしいのです」とのこと。「ゆうこう」は、ユズやスダチ、カボスなどと同じ香酸柑橘の一種で、長崎の伝統柑橘です。長崎市内では、キリシタンゆかりの地に自生が確認されています。
江戸時代前期の寛永3年(1626)に創建され、明暦2年(1656)に現在地に移設された松森天満宮。人の目にふれにくい本殿裏手の片隅で、のびのびと育ったゆうこうの木。自生なのか、誰かが植えたものなのか、その由来はまったく分からないそうです。