第607号【2020年イチョウの黄葉】

 旧暦では、枯葉が落ちて冬の寒さがはじまる「小雪(しょうせつ)」に入りました。北国ではすでに積雪に見舞われているところもありますが、長崎は、この時期にしては極端な冷え込みもなく、過ごしやすい日が続いています。今年の冬は、ラニーニャ現象の影響で〝冬らしい寒さになる〟と、数ヶ月前の長期予報では言っておりましたが、こんなに小春日和が続くと、本当かしら?と疑ってしまいそう。ただ、九州の本格的な寒さは、年が明けてからやって来るので、暖冬を決め込むには、まだ早い。とにかく冬は始まっているのですから、急な冷え込みで風邪をひいたりしないように、気を付けたいですね。

 

 11月も終わりに近づいて、ナンキンハゼ、カエデ、クヌギ、イチョウなどの街路樹は紅葉し、歩道には落ち葉がいっぱい。マスクを付けた人々が落ち葉の上を、カサコソ、サクサクと音を立てて行き交います。眼鏡橋がかかる中島川沿いの一角にある光栄寺(長崎市桶屋町)では、境内の真ん中にある大イチョウが、黄葉の見頃を迎えようとしていました。



 

 光栄寺は、幕末、若き日の福沢諭吉が寄宿したお寺として知られていますが、地元では、四季折々の姿で来訪者の目を楽しませているこの大イチョウの方が有名かもしれません。今年は、台風で葉を落としたイチョウが多いなか、光栄寺の大イチョウは無事でした。しかし、春以降の大雨、猛暑、台風、季節外れの暖かさと、例年とはちょっと違った気候にとまどいもあったようで、フサフサと付いた葉は黄金色になりきれないでいるよう。それでも、通行人たちの足を止める美しさに変わりはなく、樹のたもとに近づいて色づいた葉を拾う人の姿もありました。きっと、しおりにするのでしょうね。



 

 ところで、イチョウの葉をよく見ると、真ん中あたりに深く切れ込みが入ったものと、そうでないものがあります。図鑑によると、切れ込みのある方は、若く勢いのある枝に付いていた葉だそうです。

 

 光栄寺からほど近い寺町通りにある大音寺(長崎市鍛冶屋町)では、樹齢300年を超えるという大イチョウ(市指定天然記念物)が黄葉の見頃を迎えていました。こちらの大イチョウは台風のときに枝葉をけっこう落としたみたい。例年によりボリュウムがない印象でした。

 



 大音寺に隣接する晧台寺(長崎市寺町)では、墓域の一角に少し変わった形のイチョウがあります。太い幹から細くて短い枝が無数に出て、葉がまとわりつくように付いています。樹形は、光栄寺のような「杯形」でもなく、街路樹に多い「円錐形」でもありません。イチョウにもいろいろな種類があるようです。樹の下にギンナンが落ちていないところを見ると、雄株のようです。

 



 中国原産の落葉高木である「イチョウ」。全国的に街路樹としておなじみで、お寺や神社などでもよく見かけます。なかには御神木として崇められている樹もありますよね。社寺に植えられるのは、四季折々の姿を楽しめることに加え、樹木全体に水分を多く含み燃えにくいため防火の役割を果たすからといわれています。

 





 私たちにとって身近な樹木の「イチョウ」ですが、恐竜の時代から生き残ってきた植物であることは、あまり知られていないよう。氷河期のような極端な気候変動のときには、無理をせずじっとして、温暖なときにはスクスク伸びて種子をつなぎ、ときには人間に翻弄されながらも、自然体のたくましさで生き延びてきたのでしょう。人間もイチョウのそんな姿にあやかりたいものです。





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