第604号【秋の空を見上げよう】
台風が過ぎ去るごとに、深まる秋。そんななか長崎では9月下旬頃から季節はずれのサクラの開花があちらこちらで確認されています。これは、同月初旬にやってきた大型で非常に強い勢力の台風10号の影響ではないかといわれています。この台風による強風で、サクラの木は色づきはじめた葉を落とし、その後、春のようなポカポカ陽気が続いたことで花を咲かせたようなのです。
いつもの年なら、「春と間違えたのね〜」と笑ってすませるところですが、今年は、「どうしたものか…」と思うほどその数が多い。長崎市街地でサクラの名所として知られる立山公園や風頭公園でも、多くのサクラの木が葉を落とした枝先に花を付けていました。枝先に数輪の花を付ける秋のサクラは、春とはまた違う風情を楽しめますが、サクラの木にとっては、年に2度の開花はちょっとしんどいかもしれませんね。
秋のサクラを見上げれば、花の向こうに、空気が澄んだこの季節ならではの空が広がっています。日中の雲も、夜の星々の様子も鮮明で、自然と空を見上げる回数が多くなりますね。この10月は、1日が「中秋の名月」でしたが、今月は満月が2回(2日、31日)あり、さらに、29日は、「豆名月」「栗名月」とも称される「十三夜」です。月を眺めながら、秋の夜長を楽しみたいものです。
今月1日の「中秋の名月」の夜、諏訪神社へ出向くと、長坂(参道の長い階段)に座って月を眺める人たちの姿がありました。月は、まちの東側にある豊前坊(飯盛山)と彦山が連なる山の上にあり、北東側には火星が赤く光っていました。
江戸後期の1804年(文化元年)9月、幕吏(支配勘定役)として長崎奉行所立山役所へ赴任した大田南畝。お江戸では狂歌師「蜀山人(しょくさんじん)」として名声を高めていた彼は、1年ほどの長崎滞在の間に、「長崎の山から いづる月はよか こんげん秋は えっとなかばい わりたちも みんな出てみろ今夜こそ 彦山やまの 月はよかばい……」と長崎の方言を使って彦山から出た月のことを詠みました。この歌は、ときを超えて今も長崎の人たちに親しまれています。
空気が澄んだ秋の月夜は、運が良ければ「月光環」を見ることができるかもしれません。「月光環」とは、月に薄雲がかかったとき、月の周囲に虹色のリングが見られる現象です。実は、10月2日の深夜(満月)、日付が変わる頃に、この「月光環」を確認。雲の流れが早いため、虹色のリングは間もなくくずれ、色合いも変化。あわてて向けたカメラには、くずれた「月光環」の一部が写っていました。
秋は、夕焼けもきれいですが、たそがれどきの月で、「地球照」という現象を見れるかもしれません。夕時の長崎のまちの西の空をとらえた写真の「月」をよく見てください。小さいので確認しづらいかもしれませんが、これは、9月の三日月で、光があたっていない部分もうっすらと見え、丸い月の形がわかります。これを「地球照」といい、地球で反射した太陽光が月面に当たっていることから見られる現象です。
秋の空は、たまにしか見ることができない現象に出会える機会が多いよう。空を見上げることは、気軽にできる気分転換です。ちょっと、見渡してひと息つきませんか。