第599号【西瓜と南瓜】
令和2年7月豪雨により被災された皆様に心よりお見舞い申し上げます。一日も早く復旧し、安心・安全な日常生活がもどりますよう心からお祈りいたします。
シーボルト記念館(長崎市鳴滝)の庭園の一角で、ハマボウがレモンイエローの花を咲かせていました。その美しさは一服の清涼剤。オクラの花によく似ています。また、フヨウやムクゲの花なども連想させる姿です。あとで調べてみたら、みんなアオイ科の植物でした。
ハマボウは、19世紀にヨーロッパで著されたシーボルトの『日本植物誌』に掲載されています。この本で、ハマボウは新種として発表され、学名の「Hibiscus hamabo」には、和名のハマボウが取り入れられています。その名から想像できるように、ハマボウは海辺の砂泥地などに自生。近年では、絶滅の危険がある種として、長崎県や長崎市のレッドデータに掲載されています。
夏の花があちらこちらで咲きはじめるなか、この暑さに体調がついていかない、という方も多いことでしょう。そんな季節におすすめなのが、長崎にゆかりのある西瓜(スイカ)や南瓜(カボチャ)などのウリ科の野菜たちです。
体の熱をおさえ、喉の渇きをいやし、利尿作用や血圧を下げる効果もある西瓜。アフリカ大陸の赤道近くが原産地です。4千年ほど前の古代エジプトで、すでに栽培されていたといわれています。日本でのはじまりは、平安時代に唐との交流を通じてという説や南蛮貿易時代にポルトガル人がその種を長崎に伝えたという説、そして、江戸時代に長崎に渡来した隠元禅師が伝えたという説など諸説あります。そもそも西瓜という名称は中国語で、文字通り、西から伝えられた瓜を意味しているそう。日本で、その漢字をそのまま使用していることから、中国経由で伝えられたのは間違いないのかもしれません。
一方、南瓜は、南蛮貿易時代のポルトガル船によって、インドシナ半島の南部に位置するカンボジアから長崎に伝えられたといわれています。南瓜の漢字も中国語をそのまま当てていますが、発音は、カンボジアが転じてカボチャになったとか。ただ、九州では南瓜をボウブラと呼ぶことも。これはポルトガル語で南瓜を意味する「アボブラ」からきたよう。
江戸時代の長崎地図(延享二年(1745)/京都・林治左衛門版)に、こんな記述を見つけました。『古ハボウラ町ト云 南蛮人ボウラヲ作リシ故ニ』。その昔、南蛮人がボウラ(南瓜)を作っていたので、ボウラ町と呼んでいたというその場所は、南蛮貿易時代から江戸時代のはじめにかけて、「山のサンタ・マリア教会」や「サント・ドミンゴ教会」など、キリスト教の教会があった界隈です。市中に教会を建てた宣教師らが地元の信者とともにボウラ畑を耕していたことが伺えます。
緑黄色野菜を代表する南瓜は、抗酸化作用のあるカロテンが豊富で、免疫機能を高めてくれます。意外ですが、ビタミンCもたっぷり。南瓜のすぐれた栄養価を、海を越えてやってくる宣教師たちは実感していたのでしょう。わたしたちも風邪や夏バテ予防に、積極的に食べたいものですね。
※参考にした本:シーボルト日本植物誌(大場秀章 監修/ちくま学芸文庫)、ながさきことはじめ(長崎文献社)、からだによく効く食べ物事典(三浦理代 監修/池田書店)