第598号【初夏のグラバー園へ】

 先週からの記録的な大雨で、熊本県をはじめ九州各地で大きな被害が相次いでいます。心からお見舞い申し上げます。引き続き大雨や土砂災害への警戒をお願いいたします。

 

 先月30日、長崎市の諏訪神社で、恒例の神事「夏越大祓式(茅の輪くぐり)」が行なわれました。今年半年間の罪や穢れを、人形(ひとがた)に託して祓い清め、続いて茅の輪を8の字を描くように2回くぐります。『水無月の夏越の祓へする人は千歳の命延ぶといふなり』という和歌を唱えながらくぐれば、夏場の災厄を免れることができると伝えられています。拝殿の真正面に設けられた茅の輪は、思わず手を合わせたくなるしつらえでした。



 

 梅雨の晴れ間が広がった今月初め、久しぶりにグラバー園へ行ってきました。新型コロナの影響で一時閉園していましたが、6月から開園。グラバー園近くの土産品店の通りは、まだ人もまばらでした。手指の消毒、マスクの着用、ソーシャルディスタンスを守るといった感染対策を万全にして園内をめぐりました。



 

 長崎港を見渡す南山手の丘にあるグラバー園。幕末・明治期建造の複数の洋館が点在し、当時の息吹をいまに伝えています。モダンで洒落た外観の洋館に秘められたさまざまな歴史は興味深いのですが、今回、目を引いたのは、よく手入れされた園内の花々と豊かな緑でした。





 

 園内では、アジサイ、アガパンサス、バラなど初夏の花が満開。釣鐘のような白い小花を咲かせたアベリアには、数種類のチョウがお互いに距離をとりながら、花から花へと飛び交い吸蜜に夢中。その中に大きなアゲハチョウの姿がありました。よく見ると、ナガサキアゲハのオスで、黒い翅(はね)を広げると表面の青い鱗粉(りんぷん)が輝き、シックで美しい。このチョウは、翅の付け根に赤い模様があり、多くのアゲハチョウに見られる後ろ翅の尾状突起がないのが特徴です。ちなみにメスは、オスよりも華やかな色合いです。



 

 和名「ナガサキアゲハ」は、シーボルトが長崎で最初に採取したことに由来しています。もともと南国のチョウで、沖縄・九州・四国を中心に棲息していましたが、近年の温暖化で棲息地域がしだいに北上。いまでは関東あたりでも見られることがあるそうです。

 

 園内では、ユニークな発見が相次ぎました。喫茶室の「旧自由亭」前にある池では、亀の石像を親亀の背中と勘違いしているようなアカミミガメの姿が。クスノキの大木が多い旧オルト邸周辺では、クスノキの枝にツル科の植物が巻きついて、別の樹木のような姿になっていました。





 

 5年前「明治日本の産業革命遺産」のひとつとして世界遺産となった「グラバー邸」(国指定重要文化財)は、後世に引き継ぐための保存修理が行われていました。修理工事の様子は、建物の周囲に設けられた特設展望デッキから見学できます。工事中にしか現れない姿を見ることができる貴重な機会でもあります。興味のある方は、ぜひ、お出かけください。



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