第595号【小満のとき】
野山の緑は育ち、昆虫たちも活き活きとして、日に日に初夏めいています。二十四節気では、「小満(しょうまん)」(今年は5月20日から6月4日まで)のときを迎え、八百屋の店先では、やさしい緑色をしたグリンピースやぷっくり膨らんだそら豆、そして最盛期を迎えた橙色の路地びわが並んで、この時期らしい彩りを見せています。山や畑では、いつも通りに季節のめぐみが育っているよう。とても、ほっとします。
長崎市民の総鎮守、諏訪神社へ参拝にいくと、参道脇に植えられたザクロの木が、鮮やかなオレンジ色の花を咲かせはじめていました。長崎の家々では、庭木として植えているところも多いザクロ。毎年、5月下旬に開花して、秋の大祭「長崎くんち」の本格的な稽古はじまりを告げる「小屋入り」(6月1日)が近づいたことを知らせます。
しかし、今年は新型コロナウイルス感染拡大防止のために、「長崎くんち」の中止が先月決まりました。よって「小屋入り」も行われないことに。寛永11年(1634)にはじまって以来、脈々と伝統をつないできた「長崎くんち」。今年は、その賑わいや華やぎのありがたさを再認識することになりそうです。
新型コロナの収束やもろもろのお願いごとを抱えて出向いた諏訪神社。その境内の各所には、さまざまな願かけに応じてくれるという狛犬たちが鎮座しています。とくに、拝殿の裏手の路地は、狛犬通りと呼びたくなるほどいろいろな狛犬に出会えます。
拝殿の左側から裏手に回ってすぐの場所にいるのは、「止め事成就狛犬」。お酒やたばこなど止めてほしいことを、狛犬の足に白いこよりを巻いて祈願します。路地をすすむと、「高麗犬井(こまいぬいど)」があります。表情はごついのですが、体が小さいからか、どこか可愛らしい。狛犬の口から湧き出ている水でお金を洗うと倍増するといわれ、また、この水を飲むと安産になるというご利益も伝えられています。
路地をさらにすすむと、江戸時代の遊女ゆかりの「願掛け狛犬」や心のトゲを抜いてくれるという「トゲ抜き狛犬」がいます。拝殿裏手の石段を玉園稲荷神社にむかって登れば、頭にお皿が乗った「カッパ狛犬」が1対。狛犬定番の阿吽の表情です。お皿に水をかけて祈願します。
先にご紹介した諏訪神社のザクロの木は、参道の一角にある祓戸神社に植えられています。この祓戸神社の前でわるいものが入らぬよう見張っているのが、「立ち狛犬・逆立ち狛犬」です。名称のとおり、一方は後ろ足だけで立ち、もう一方は逆立ちという、とても珍しい姿をしています。こちらも、頭の上にお皿が乗っているので、カッパ狛犬の一種!?のようです。
よーく見ると、かっぱカッパ系と思われる狛犬が複数いらっしゃる諏訪神社。その不思議さと、どこか愛嬌のある個性的な姿に気を取られ、お願い事をするのを忘れそうになりました。