第579号【秋の味覚と長崎くんち】
相次ぐ台風による被害にあわれた方々に、心よりお見舞い申し上げます。1日も早い復旧をお祈りいたします。
9月も下旬。日中はまだ30度を超える日があるものの、朝晩は日ごとに涼しくなっています。先週の北海道の天気予報では、早くも雪マークが出た地域もありました。秋は足音を立ててやって来ています。こんな季節の変わり目は体調をくずしがち。いつも以上に食事や睡眠に気を配り、元気に食欲の秋、行楽の秋を迎えたいですね。
地元の農産物を扱う店では、零余子(むかご)が出ていました。零余子は、自然薯などヤマイモ類のつるの葉の付け根などにできる粒で、炒ったり、蒸したりして食べます。俳句では、ご飯に炊き込んだ「零余子飯(むかごめし)」と共に、秋の季語でもあります。長崎県大村市の名物「ゆでピーナツ」に似た素朴な味わいにほっとします。
秋は祭りの季節です。長崎では秋の大祭「長崎くんち」が10月7、8、9日の3日間行われます。地元では、「赤本」と呼ばれる「長崎くんちプログラム」の冊子が毎年出ていて、長崎商工会議所や長崎市中心部の書店などで販売(200円税込)されています。「赤本」には、踊町(おどりちょう)と演し物の説明、踊場ごとの踊町順番と時間、出演者の氏名など、その年の長崎くんちのことが詳しく掲載されています。売り切れることもあるようなので、購入は早めがいいようです。
江戸時代初期の1634年(寛永11)にはじまった「長崎くんち」は、今年で385年目を迎えます。異国情緒漂う長崎くんちの奉納踊(演し物)は、国指定重要無形民俗文化財に指定されています。奉納踊を担当する踊町は、長崎市内に約60カ町あり、それらが7つの組に分けられ、7年に1回当番が回ってくるようになっています。令和元年の踊町(演し物)は、今博多町(本踊)、魚の町(川船)、玉園町(獅子踊)、江戸町(オランダ船)、籠町(龍踊)の5ヶ町。それぞれの踊町は、稽古を重ね、この夏の猛暑をのりこえて本番を迎えます。
本番前の10月3日には、踊町の家々が、傘鉾(かさぼこ)や演し物の衣装、小道具、そして出演者に贈られたお祝いの品々を披露する「庭見世(にわみせ)」が行われます。夕刻からはじまる「庭見世」は、学校を終えた子供たちを連れた家族や会社帰りの人々が、涼しい秋の夜長を楽しむように、和やかにそぞろ歩く光景が見られます。華やかに披露されたくんちの品々を見ながら、7、8、9日の本番に向けて祭り気分が盛り上がるひとときです。
庭見世の翌日10月4日は、「人数揃い(にいぞろい)」が行われます。これは、演し物の稽古仕上がりを、町内の数カ所で踊町関係者に披露するもの。衣装を身にまとい本番さながらに行われます。
7年に1度の踊町の当番は、意外に早く巡ってくると多くの踊町の方々が言います。7年の間に、囃子を担当した子どもが若者になって根曳き衆になったり、根曳き衆だった男性は、指導する側にまわったりと、ときの流れに応じた変化があります。前回(平成24年)撮った踊町の写真を見ながら、めくるめく時の流れのなかで、「長崎くんち」が多くの人々の人生の節目を彩っていることをあらためて感じたのでした。