第572号【元気をくれる初夏の花々】
長崎くんちの稽古はじまりを告げる「小屋入り」が終わったと思ったら、あっという間に6月中旬。いつもなら雨の季節に入っているはずですが、長崎を含む九州北部や中国、四国地方などはまだ梅雨入りしていません。それでも、街角に咲くアジサイはすっかり見頃を迎え、行き交う人々の目を楽しませています。
長崎市街地の観光スポット(中島川周辺、シーボルト記念館、出島など)では、いま「ながさき紫陽花まつり」(ながさきオタクサまつり)が行われています(6月16日まで)。「紫陽花」と書いて「オタクサ」と呼ぶのは、江戸時代、オランダ商館医として長崎に7年ほど滞在したシーボルトが、日本の「紫陽花」に「Hydrangea otaksa(ハイドランジェ オタクサ)」と名付けヨーロッパに紹介したことに由来しています。オタクサとは、シーボルトの日本人妻「お滝さん」のこと。そんなエピソードから、アジサイは「長崎市の花」にもなっています。
眼鏡橋のたもとでは個性的なアジサイが咲き揃っていました。花びらがクルンと丸まった「ポップコーン」、愛らしい姿に気分が晴れそうな「雨に唄えば」などなど。姿とともに名前にもアジサイの個性が光っていました。
アジサイだけでなく、ほかの初夏の花々も麗しい姿を見せています。眼鏡橋のアジサイのそばにはキンシバイ(金糸梅)、中島川河口付近の玉江橋そばにはビヨウヤナギ(未央柳)が咲いていました。どちらも中国原産のオトギリソウ科の植物で、鮮やかな黄色の5弁の花です。よく似た花同士ですが、キンシバイの方がやや小ぶりの花でカップ状に咲き、雄しべが短い。ビヨウヤナギは花びらを大きく開き、雄しべが長いのが特徴です。いずれも、江戸時代に日本で盛んに栽培されるようになった植物だそうです。
出島橋の近くではアメリカデイゴの花が満開でした。和名は海紅豆(カイコウズ)。南米原産のマメ科の落葉低木で、日本への渡来は江戸時代末期から明治期と言われています。グラバー園や長崎水辺の森公園などでも目にする木で、寒い地方から訪れた観光客は、南国情緒漂う朱色の花に九州らしさを感じるようです。ちなみにアメリカデイゴは鹿児島の県花。やはり、南国的な情緒・雰囲気が県花に選ばれた理由だそうです。
アメリカデイゴは、初夏から秋にかけて、3回くらい花を咲かせるといいます。だからでしょうか、満開の木はストン、ストンとかすかな音を立て、いさぎよいくらいに次々に花を落とします。木の下は、花の絨毯になっていました。
長崎港に面した長崎水辺の森公園では、南米原産のジャカランタの花も咲いていました。長崎県でジャカランダといえば、島原半島の「小浜温泉ジャカランダ通り」が知られています。ジャカランダは、カエンボク、ホウオウボクと並ぶ世界三大花木のひとつ。アメリカデイゴとともに海辺でたくましく育つ花木で、涼しげな青紫色の花は、6月中旬のいまが見頃です。
蒸し暑さのなかで花開く生命力いっぱいの初夏の花々。そのみずみずしい姿に元気をもらえそうです。