第568号【めくるめく平成31年の春】
この春も長崎港には外国人観光客を乗せたクルーズ客船が連日入港しています。桜の花びらが舞いはじめた長崎の市街地では、観光めぐりを楽しむ外国人たちが地元の人といっしょに桜の樹を見上げ、つかのま日本の春を満喫しているようでした。
桜の樹に集まるのは人だけではありません。花蜜を求めてスズメやメジロ、ヒヨドリなどの野鳥たちも桜の枝から枝へ飛び回っています。そのなかに「ツツピ、ツツピ」と鳴くシジュウカラを見つけました。シジュウカラは全国に分布する小鳥ですが、なぜか北日本に多く、西日本には少ないといわれています。シジュウカラは桜の花蜜を吸うとき、花の根元あたりをちぎりとるため、樹の下には花ごと落とされたものが散らばります。一方、メジロなどは、花にくちばしを差し込んで舌でなめるので、花をちぎり落とすようなことはありません。いずれにしても桜がいっせいに開花する時期は、野鳥たちにとってもうれしい季節なのでありました。
次々に花が咲き、新芽が萌えはじめるこの季節は、刻々と色鮮やかに変化する自然の様子を楽しめるとき。ついこの間まで、葉をすっかり落として幹や枝をあらわにしていたイチョウの樹は、枝先に若葉をつけはじめました。小さいながら形はすでに扇型です。
クスノキもやわらかな新緑を茂らせはじめています。クスノキの葉の寿命は1年で、春は葉が入れ替わる時期です。古い葉は赤くなって落ちていきますが、生まれてくる新芽も赤っぽい色を帯び、次第に黄緑色へ変化していきます。葉の先をよく見ると、小花もつきはじめています。いまは固い小花も、5月のはじめ頃になると黄白色になり、数日間香りを漂わせます。長崎はクスノキがとても多いので、このまちの「薫風」は、たぶんクスノキの香りがメインなのでしょう。爽やかさのなかに、やさしい甘さの混じったとても心地よい香りです。
古い民家の庭先などでは、誰も摘む人がいないのか、ザボンの樹に大きな実がいくつもぶらさがったまま、という光景も見られます。ザボンは長崎ゆかりの柑橘類で、実がなるのは2月頃から4月頃まで。厚い果皮に覆われた果肉は香りがよく、さわやかな甘さです。日本のグレープフルーツといった感じでしょうか。
寛文7年(1667)、長崎聖堂の学頭で、唐通事でもあった盧 草拙(ろ そうせつ)は、唐船の船長からザボンの種子(ジャワから持ち帰ったもの)をもらい、自分の土地に蒔きました。種はスクスクと成長して実がなり、さらにその種が長崎近郊、そして九州各地で蒔かれるようになったといわれています。
日本でのザボン発祥の地となった草拙の土地とは、現在の西山神社(長崎市西山本町)の境内。参道の一角には江戸時代の元木の四代目が植えられています。それほど大きい樹ではありませんが、毎年、実をたわわにつけています。この4月に訪れたときも20個近くの実が枝をしならせていました。