第565号【ツバキの季節】

 庭の手入れをしていたご近所の方から「よかったら、どうぞ」と、ヤブツバキをいただきました。ツバキは、コップにひと枝挿すだけで、簡素、静けさといった雰囲気を醸してくれます。わび・さびに通じるその姿は、もともと日本に自生する花木だからでしょうか。早咲きのタイプは花の少ない晩秋・冬には咲きはじめるので、「冬の薔薇」とも称されるツバキ。最近では品種改良がすすんでいるのか、花の色や形、大きさも多彩なっているようです。



 



 ツバキの名所として全国的に知られているのは、長崎県の五島列島や静岡県の伊豆大島など。ちなみに長崎県の花は「ツバキ」です。五島列島はもちろん、県下各地の山あいでツバキの群生が見られ、街路樹や庭木としてもよく見かけます。そのなかで、とくに愛好家たちに注目されたものに、五島列島の福江島で戦後発見された「玉之浦」(ヤブツバキの突然変異種で赤い花弁の縁が白い)や長崎市野母崎町の権現山で近年発見された「陽の岬」(白ツバキの一種)などがあります。



 

 常緑広葉樹のツバキ。葉に艶があることから、古く「艶葉木(ツバキ)」と書き記されたこともあります。ツバキの葉で、ちょっと変わった形をしたものが、長崎港そばの街路樹にありました。葉の先が割れ金魚の尾のような形をした葉です。これは、見た目通りに「金魚葉」とよばれる種類で、ヤブツバキの突然変異だそうです。



 

 中国南部にも自生するというツバキ。長崎駅からほど近い玉園町にある聖福寺には、中国の「唐椿」にちなんだエピソードが残されています。聖福寺は、延宝5年(1677)、黄檗宗を日本に伝えた隠元の孫弟子にあたる鉄心禅師によって創立されました。鉄心は、お寺の創建時に「唐椿」を植樹し、とても可愛がったそうです。亡くなる直前には、自力で動けなくなった体を椿の近くまで運ばせて鑑賞。その後、沐浴し、その水を唐椿にやるよう命じて間もなく亡くなられたと伝えられています。



 

 そのツバキは、「鉄心椿」と称され、いまもお寺の一角にあるとか。ひと目見たくて聖福寺へ足を運ぶと、参道や境内に数本のツバキが植えられていました。残念ながらどれが「鉄心椿」なのかはわからないままお寺を後にしましたが、たくさんの花をつけたツバキは唐寺になじみ、静かで美しい景色を生み出していました。

 

 ところで、ツバキとよく混同される花木に、同じツバキ属のサザンカがあります。区別するときに分かりやすいのは、花の散り方かもしれません。花ごと落ちるのはツバキ、木のたもとに花びらが散らすのはサザンカです。

 

 サザンカというと、江戸時代、出島にオランダ商館医としてやってきたツュンベリーが思い起こされます。ツュンベリーは、スウェーデンの植物学者リンネの高弟で、1775年から1年半ほど出島に滞在し、精力的に日本の植物を採集しました。帰国後、それらの植物に学名をつけ「日本植物誌」を著します。そのなかに和名をそのまま種名や属名に用いたものもあり、そのひとつにサザンカがありました。長崎市立山にあるツュンベリー記念碑の背後には、晩秋に白い花を咲かせるサザンカが植えられています。



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