第562号【亥年スタート】
どんなお正月を過ごされましたか。長崎の三が日は穏やかな天候に恵まれ、初詣に出向く人々の姿で賑わいました。北国では強い寒波や大雪に見舞われていますが、大事のないことを祈るばかりです。暦はすでに寒入り。九州もこれから厳しい寒さを迎えます。風邪やインフルエンザに気を付けて、この冬を元気に過ごしたいですね。
おとといの正月7日は、七草粥の日でした。食べると一年間の病気を防ぐといわれ、江戸時代には将軍様も七草粥を召し上がるという公式の行事があったそうです。神社やお寺などではいまでも七草粥の行事をするところがあります。長崎の諏訪神社では、今年もおよそ千人分を大釜で炊き上げ、参拝客にアツアツの七草粥を振る舞っていました。
白粥に入れる七草とは、セリ、ナズナ、ゴギョウ、ハコベラ、ホトケノザ、スズナ、スズシロといった春の野草。食欲をそそる香りを放つセリ、解熱や止血などの効果があるナズナ、消化を促進するスズナなど、それぞれの野草には身体にうれしい効果があります。ほっこりする湯気の香りとともに、胃腸にやさしい七草粥。七草がそろわなくても、小松菜やホウレン草などの青菜を刻んで入れれば、冬場をしのぐ養生粥になりますね。
七草粥を食べながら、干支のイノシシにちなんだものが長崎のまちにあるかなあと思いを巡らしてみました。竜なら、まちのあちらこちらで見かけるのですが…。そうそう、春徳寺(長崎市夫婦川町)にありました。山門をくぐると右手にある小さなお堂、「摩利支天堂(まりしてんどう)」のイノシシの彫刻です。
「摩利支天堂」の摩利支天(マリシテン)とは、日月の光や陽炎を神格化した神様のことです。お堂のそばに掲げた説明によれば、マリシテンは、梵天さまの子で、開運、愛情、得財、勝利にご利益があるとのこと。戦国時代には武士たちの守護神として祀られることも多かったようです。また、亥年生まれの守護神でもあるとか。それで、お堂の梁の上にイノシシ像が彫られていたのです。
春徳寺の「摩利支天堂」は、寛永年間(1624-1642)に京都の禅居庵の分霊を祀ったもので、この地にいらして400年近い歴史がありますが、地元でもその存在を知る人は、案外少ないかもしれません。そもそも春徳寺は、長崎で最初に建てられたキリスト教の教会「トードス・オス・サントス跡」(県指定史跡)の地として知られ、また、唐通事・東海氏の中国風の墓(県指定有形文化財)があることでも有名です。さらには、幕末の16代住職、鉄翁禅師が、木下逸雲、三浦梧門とともに長崎南画三筆として知られるなど、長崎の歴史に関わるさまざまなエピソードを持つお寺なのです。そんな由緒ある春徳寺のふだんの様子は、思いのほか静かで、手入れの行き届いた境内には澄んだ空気が漂い参拝がてらのんびりとしたひとときを楽しめる場所でもあります。
「摩利支天堂」のそばにあった春徳寺の掲示板には、「猛進三昧」という干支にちなんだ新春の言葉が掲げてありました。心のままに勢い良く前進せよということでしょうか。皆様にとって良い年でありますように。本年もよろしくお願い申し上げます。