第554号【冥界へつながる炎、崇福寺の中国盆】

 このたびの北海道地震で被災された方々に心よりお見舞い申し上げます。地震活動の収束を願い、皆様の安全と、一日も早い暮らしとまちの復興をお祈りいたします。

 

 連日30度を超えた日中の暑さもようやくおさまってきました。今回は、夏もそろそろ終わりという時季に行われる崇福寺(長崎市鍛冶屋町)の中国盆をご紹介します。中国盆は旧暦の726日から3日間行われる伝統行事です。今年は新暦957日にあたり、全国各地から華僑の方々が集い賑わいました。



 

 江戸時代にはじまる崇福寺の中国盆は、380年以上の歴史があるそうです。ご先祖さまの霊だけでなく、動物、植物、昆虫といったすべての生物が供養の対象になるそう。期間中の崇福寺は、日本のお盆とはまた違った唐寺ならでは風情を色濃く映し出します。

 

 3日間の中国盆のなかで、もっとも盛り上がりを見せるのは、やはり最終日に、金山・銀山を燃やして全世界の霊を冥界へ送り出すひとときです。というわけで、最終日の夕方、崇福寺へ向かいました。

 

 山門をくぐり、国宝の第一峰門へつながる石段をのぼっていくと、竹線香の細い煙と匂いが鼻先をかすめました。足元を見ると1本の竹線香が地面に刺さっています。振り返ると、一定の間隔で竹線香が立てられていました。「精霊が迷わずお寺にたどりつくための道しるべですよ」と県外から来たという華僑の男性が教えてくれました。



 

 第一峰門のたもとに設けられた祭壇には、今年も七爺(チーチャ)、八爺(パーチャ)の神像が祀られていました。ふたりは、道教の神さまに仕える身。背が高く色白の七爺は、右手に「見我生財」と書かれた軍配を持っています。「私を見ると財産が生まれるよ」という意味です。八爺は、背が低く黒い肌で大きな丸い目をしています。左手に持った軍配には「善悪終有報」の文字。「善も悪も最後にはそれぞれの報いがあるからね」と、愛嬌のある表情で諭すのでした。



 

 国宝の大雄宝殿(本殿)の前に行くと、各所に設置された祭壇をめぐりながら竹線香をあげて祈る華僑の姿がありました。白いお皿に盛られズラリと並べられたお供えものは、シイタケ、キクラゲ、ナツメ、寒天など、薬膳でもよく使われる食材ばかりで興味をそそります。



 

 夕刻からはじまった長いお経のあと、奉献された金山・銀山、そして衣山が石畳の境内に集められました。金山・銀山は、冥界で使うお金で、衣山は服や帽子、履物などを意味します。それらを燃やすことで故人の霊とともに冥界へ送り出すのです。点火されると間もなく数メートルの炎があがりました。盛大な炎のゆらぎに見惚れる檀家さんや見物人たち。小さな火の粉も消えるまでしっかり見守られたあとは、地元の消防局の出番です。大雄宝殿をはじめ敷地内の建物に念入りに放水。じっくり濡れた崇福寺は、スコールのあとのようなさわやかな空気に包まれました。









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