第547号【ビワの季節】
梅雨入りを前に、長崎の家々の軒先ではアジサイが咲きはじめました。庭や歩道脇に植えられたビワの木もたくさんの果実を実らせています。あらためて見ると長崎は、ほかの九州のまちと比べてもアジサイとビワの木がとても多い気がします。温暖な気候に合っているというのはもちろんですが、アジサイは、出島のオランダ商館医シーボルトゆかりの花として、長崎市の花に指定されていることもあり、地元の人にとってはとくに親しみのある植物です。そして、ビワも江戸時代に中国から長崎に伝えられたものが、長崎市茂木地区を中心に生産される「茂木ビワ」として育まれ、いまでは全国一の生産量を誇っています。こうした歴史的背景が長崎のまちや人々のなかに根付いた大きな理由なのでしょう。
ジューシーでやさしい甘さが特長のビワは、昔から咳やノドの痛みに効果があるといわれています。ビワの果肉には体内でビタミンA(粘膜や皮膚の健康維持、視力維持などの働きがある)に変換されるβ-カロテン、βクリプトキサンチンを含み、さらにビタミンB群、りんご酸、クエン酸、ビタミンCなど身体にうれしい栄養素が含まれています。夏に向かう身体づくりに役立つビワ。旬を逃さず、積極的に食べたいフルーツです。
たわわに実ったビワから視線を下ろすと、赤い小さな穂をつけた植物が石垣をおおっていました。その姿からクローバの仲間の「ストロベリーキャンドル」だと思ったのですが、よく見ると様子が違います。赤い穂は、エノコログサのようにフサフサで、葉もクローバー系ではありません。「キャッツテール」という植物でした。原産地は西インド諸島。四季咲きの多年草で、近年、観賞用として人気のようです。
中島川にかかる石橋のひとつ桃渓橋でもかわいい花を見つけました。石と石の間に根を下ろしたその植物は筒状の黄色い花をいっぱい付け、葉はセリに似ています。これは、たぶん「キケマン」という植物。ケマンは、寺院のお堂を飾る「華鬘(けまん)」からきたもので、花の形がそれに似ているからだとか。紫色をした「ムラサキケマン」とともに山地や平地でときどき見かける植物です。
小さくかわいらしい「キャッツテール」や「キケマン」とは対照的ともいえる大きな花が公園に咲いていました。「タイサンボク」の花です。直径50〜60センチほどの大輪で、厚みのある白い花弁はクリーム色をおびています。花の中央には円錐状になったオシベとメシベが鎮座。その姿にはどこか雄々しさが感じられます。そんな花の印象が気になって調べてみると、「タイサンボク」は1億年以上も前(白亜紀)に出現したモクレン科の広葉樹で、その頃の「花」の形を現代まで残しているとのこと。1億年前といえば、恐竜の時代。なんだかスゴイ話です。
さて、日に日に夏めくなか、季節とばかりに花から花へと舞っているのはアゲハチョウです。ひと口にアゲハチョウと言っても、漆黒の翅(はね)が美しいクロアゲハ、黄色の地に黒の線と青や橙色の文様の入ったキアゲハ、黒地に赤、白、橙色の文様があるナガサキアゲハ、青や緑など色彩豊かなカラスアゲハなどいろいろな種類がいます。チョウのなかでもアゲハチョウの飛ぶ姿は大人びた優雅さがあります。ちょっと観察してみませんか。