第546号【5月の陽気に誘われてまち歩き】

 55日の端午の節句、さわやかな陽気に誘われてまちへ出ると、商店街の一角で菖蒲の葉を売る人の姿が。「そうそう、菖蒲湯に入らねば!」と思って近づくと、山と積まれた菖蒲の葉とともに、蓬(よもぎ)と茅(カヤ)を束ねたものもありました。「これは?」と露店のおばさんに尋ねると、「このあたりの風習で、端午の節句に軒先に3束ほどをぶらさげるとけど、知らんとね?」。「初めて聞きました」。「ああ、そうね。お年寄りのいる家では、まだやっているところも多いよ。でも、いま頃はビルに住む人の多かけん、こういうことをする家も少なかね」と残念そう。邪気払いの意味があるという蓬と茅の束には、菖蒲の葉も数本添えて軒先に下げるそうです。あとで調べてみると、端午の節句のこうした風習は全国的にあるようでした。



 

 菖蒲の葉を買い物袋におさめてまち歩きを続けると、どこの公園でもベンチに座ってのんびりと過ごす人々の姿が見られました。若葉を茂らせた公園のクスノキは、その香りを風にのせてまちじゅうをリラックスさせているよう。クスノキを根元から見上げると、幹や枝の表面にはノキシノブが群生していました。ノキシノブは細長い葉を持つシダ植物の一種。家屋の軒端に忍ぶように生えることからノキシノブという名前が付けられたそうで、和歌にも詠まれた植物のひとつです。クスノキの樹皮はほどよい厚みがあって、縦横に裂けているので、ノキシノブが着生しやすい環境なのでしょう。樹皮はところどころコケにもおおわれ、いろいろな植物の生命の営みが感じられました。



 

 クスノキの近くでは、スズメの親子とも遭遇。親鳥はたいへん子煩悩で、卵からかえると1日に300回近くもヒナにエサを運ぶそうです。巣立ったあともしばらくはエサを与えます。見かけた親子もちょうどそんな時期。幼鳥がクチバシを大きく開けて、親鳥にエサをちょうだいとアピールしていました。野鳥ガイドブックによると、スズメは桜の咲く頃に産卵。ヒナを育てあげると、夏の終わり頃までに、もう1、2回次の子育てを行うそうです。「チュン、チュン」という鳴き声とともに、日々見かけるスズメですが、実は知らないことだらけだなあと思いました。





 

 長崎港へ出て、オレンジ色の大きな球体が目立つ「ドラゴンプロムナード」へ。船着場のそばにあるこの建物は、貨物上屋(かもつうわや)。つまり、港に入る荷物を一時置いておく倉庫なのですが、建物の上部は催しなどが行えるスペースがあり、最上部には展望デッキが設けられています。とはいえ、建物の一部にさえぎられて港湾や市街地を思う存分一望することはできません。ただ、新しく建てられた長崎県警と長崎県庁が並んで建つ景色は、ここからがいちばん見やすいかもしれません。その眺めを楽しんでいた時、ふと、長崎県庁の屋上ではためくものに気付きました。その日が端午の節句だったこともあり、「もしや、鯉のぼり?」と思ったのですが、望遠レンズで撮ってみると、風観測に使用する吹き流しだと分かりました。後日、県庁の広報課に問い合わせてみると、屋上にはヘリポートがあり、風向きと風速を知るために常時、吹き流しを設置しているそうです。その大切な役割はさておき、この日の吹き流しは、五月の風にあおられて、鯉のぼりさながらたいへん気持ち良さそうでありました。





検索