第544号【春の山菜】
この春は、例年より早めに桜が開花。西日本各地では、天候にも恵まれて長く花の季節を楽しめました。いつもなら四月末以降になる東北北部や北海道での開花も早まり、今週末から来週にかけてになるとか。長崎の諏訪神社では、桜の見頃が終わる頃、利休梅がすがすがしい純白の花を咲かせました。ソメイヨシノよりやや大きい花ですが、かすかにサクラに似た風情を感じるのは、同じバラ科の植物だからなのでしょう。
菜園を楽しむご近所の方から、初物のサヤエンドウとスナップエンドウをいただきました。料理に華やかな彩りを添える明るいグリーン。サヤごと食べられるので食物繊維がしっかりとれます。β-カロテン、ビタミンC、カルシウムなどバランスのとれた栄養も魅力です。スーパーで一年中見かけますが、やはり旬のみずみずしい味わいは格別です。
旬といえば、タケノコ、ツワ、ワラビ、ゼンマイ、フキなど春の山菜も出回っています。春には山菜を食べるといい、と昔から言われるのは、その苦味、えぐみが冬の間からだに溜め込んだ老廃物を排出させる効果があるからだそう。それは、やがて来る暑い季節を見据えたからだ作りにもつながっています。山菜は、適度に苦味を抜く下処理に少々手間がかかりますが、そのひと手間を楽しめるようになったら、しめたもの。タケノコ、ツワの煮つけ、ワラビのおひたしなど、昔ながらのおいしさは気分もほっこりと落ち着かせてくれます。
山菜は、花見で野山に出たときにたくさん見かけましたが、その中で、小さな赤い果穂を付けた「ギシギシ」と呼ばれる植物が目を引きました。子供の頃、野山をかけまわって遊んだ世代の方々なら、その茎を噛んで甘酸っぱい汁を楽しんだ思い出があるはずです。タデ科の多年草で、長崎地方では「ギシギシ」と呼ばれていますが、「スイバ(酸い葉)」が正式な学名。実は「スイバ」も日本の春の山菜のひとつ。ヨーロッパでは解熱効果のあるハーブとして知られ、古くから栽培されているそうです。
桜の木の下で、「ギシギシ」を味わいながらふと目をあげると、ベージュの羽毛に包まれた鳥を発見。スズメよりやや大きめで、体の線はずんどう気味。くちばしから目を通る黒い線(過目線)が特徴的です。これは、雄のモズ。小柄ながら肉食系の鳥です。近くで「ガー、ガー」とカエルの鳴き声が聞こえたところをみると、たぶんカエルの様子を伺っていたのでしょう。
漢字で「百舌」と表記されるのは、ほかの鳥の鳴き声を真似することに由来するとか。全国で一年中見られる鳥ですが、今回偶然にも目の前に現れ、カメラでとらえたのは初めてのことだったので、少し興奮しました。思いがけなくうれしいことが起こる春でありました。