第543号【長崎さくら便り】
先週土曜日の朝、大きく優雅な船体が静かに女神大橋をくぐり、長崎港に入港しました。イギリスの大型客船クイーン・エリザベス(約90,000t)です。世界25カ国を回るクルーズの途中、長崎に寄港。気品漂うクラシカルな外観は、まるで洋上のバラのよう。この日の長崎は1週間ほど前に開花した桜が、満開を迎えはじめた頃でした。降り立ったクイーン・エリザベスの乗客たちは、きっと、長崎の桜を楽しんだことでしょう。
西日本各地の桜は先週には開花し、今週いっぱい満開というところが多いようです。来週4月に入れば、花ふぶき。そして、こちらがすっかり葉桜となるゴールデンウィークの頃に、東北や北海道で開花を迎えるのですね。これから、ぐんぐん北上する桜前線。各地から届く満開のニュース映像に、春めく日本を感じます。
長崎県内のお花見スポットは、長崎市は立山公園、風頭公園、佐世保市は西海橋公園、諫早市は諫早公園、白木峰高原、大村市は大村公園、島原市では島原城などが代表的です。今回、長崎駅にも近い立山公園に足を運ぶと、園内にはお花見気分が盛り上がる提灯がはられ、出店が並んでいました。桜は、やさしいピンク色のソメイヨシノが中心で、白い花びらの桜もところどころに。高台にある立山公園から見渡したのは、春霞に包まれた長崎市街地。朝入港したばかりのイタリア船籍の大型客船コスタ・セレーナ(114,000t)の姿もありました。
立山公園から東側へくだったところにある長崎大学経済学部の片淵キャンパスの桜も見事に咲き誇っていました。このキャンパスの敷地内や周辺には、たくさんの桜が植えられていて、地元ではよく知られた名所のひとつです。春休み中のキャンパスは人影もまばらで、あまり人の目に触れられないのがもったいないと感じるほど。ご近所の方や通行人が、何度も足を止めながら眺めていました。
片淵キャンパスの正門付近には中島川の支流である西山川が流れ、明治36年(1903)に架設された拱橋(こまねきばし)がかかっています。橋の長さは約17メートル、幅は約9メートル。ちなみに橋の名前の「拱」は、「アーチ型」の意味し、その名の通り石造のアーチ橋です。ちなみに、この橋は、前回ご紹介したコンクリート造のアーチ橋、鎮西橋(昭和9年造)の上流にあります。建造当時は、橋造りの技術が鉄筋コンクリートに移行する時期にあり、拱橋は近代の石橋として貴重な遺構ということで登録有形文化財に指定されています。
115年前の姿をいまに残す拱橋に思いを馳せながら片淵キャンパスに近い、新大工商店街へ。そこで、釣ったばかりのアラカブ(カサゴ)を購入。小ぶりの魚で、イカツイ顔つきをしています。一年中釣れる魚ですが、冬から春にかけてが特においしい。個人的には、なぜか桜の季節になるとアラカブを食べたくなります。
アラカブは、甘みのあるダシが出るので、味噌汁や煮付けがおすすめです。一部では、高級魚として扱われるそうですが、ウソかマコトか、江戸時代には、まずい魚ということで「アンポンタン」と呼ばれ、捨てられていたとか。江戸時代の人々の味覚を疑ってしまった春のひとときでした。