第536号【滋養たっぷりの汁もので温まろう】
ナンキンハゼの落ち葉をサクサクと踏みながら歩く長崎のまち。前回、ご紹介した光永寺(長崎市桶屋町)のイチョウもすっかり葉を落としましたが、幹と枝だけの姿も古木の風格が漂って美しい。今年は紅葉にとってちょうどいい気温が続いたのか、いつもより美しく、長く楽しめたような気がします。先週には、例年より11日、昨年より1カ月以上も早い初雪。日に日に寒さが本格的になっていき、師走らしくなってきました。
そんななか、今年も五島の知人からかんころもちが届きました。かんころもちは、サツマイモを薄くスライスし、茹でたものを寒風で乾燥させた「かんころ(干しイモ)」が主原料。つきたてのかんころもちは、そのままでもおいいしいのですが、我が家では、1〜2センチくらいの厚さにスライスして冷凍庫に保存。トースターでチンしていただいています。
さて、寒さが身にしみるこの季節、あたたかい汁ものが恋しいですよね。おいしい汁ものといえば、やはり、ちゃんぽん。豚骨と鶏ガラ、そして魚介の旨味とコクが渾然一体となったちゃんぽんスープは、具材の野菜や麺の味も溶け込んで滋養もたっぷり。寒さでかじかんだ心と身体をほぐしじんわりと温めてくれます。
来週は冬至ですが、冬至に食べる風習がある「カボチャ」を使ったおすすめの汁ものといえば、京都府の伝統料理「いとこ汁」でしょうか。小豆とカボチャが入ったみそ汁(白みそ)で、お祭りのときに供される精進料理です。小豆は、デトックス作用があり疲労回復や便秘、二日酔いなどにいいといわれています。カボチャは、カロテンを豊富に含み粘膜を丈夫にするので風邪の予防にもつながります。
冬至は「一陽来復」の日。江戸時代の長崎の商家では、座敷に設けた壇に、関羽、張飛などの絵を飾り、野菜やお菓子、そして善財餅(「ぜんざい」のこと)を供えたそうです。そして出島では、「阿蘭陀冬至」と呼ばれた祝宴が開かれました。キリスト教が禁じられていた当時の日本。キリストの降誕を祝うクリスマスが、冬至の日に近いことから、出島のオランダ人たちは、「冬至を祝う」という名目で祝っていたそうです。
このときの祝宴ではどんな汁ものが出されたのでしょう。冬至の節の11日目に催された「阿蘭陀正月」の祝宴のメニューをみると、牛肉を油で揚げたものやソーセージ、チーズなどの洋食にまじり、みそ汁や魚を煮たものなどの和食らしきものもみられます。当時のオランダ人たちは、みそ汁をどんな気持ちで味わっていたのでしょうか。
ところで、長崎の郷土料理には、出島時代の前の南蛮貿易時代に伝わったとされる「ヒカド」という汁ものがあります。ブリ、鶏肉、そしてダイコン、ニンジン、サツマイモをさいの目に切って煮込んだもので、調味料は塩と薄口しょうゆだけのあっさりとしたもの。仕上げにサツマイモをすってとろみを出します。「ヒカド」の名はポルトガル語で、「細かく切る」を意味する「picado」に由来。見た目はシチューのようでもあり、ちゃんぽんと並んで、真冬にもうれしい長崎の汁ものであります。