第514号【良い年になりますように、社寺巡り】
年末年始、いかがお過ごしでしたか。九州地方の三が日は天候に恵まれ、和やかな新年の幕開けとなりました。
年を越した場所は、長崎市寺町にある唐寺・興福寺です。除夜の鐘が鳴り響くなか山門をくぐると、境内も本殿も新年を迎える準備が整えられ、すがすがしい空気が漂っていました。1620年(元和6)に創建された興福寺は、日本最古の唐寺。朱色の建物や仏像の姿に、のどかでおおらかな大陸文化の影響が感じられます。
その本殿で、去年今年をまたぐ深夜の数十分間、箏と尺八による演奏が行われました。あたりに染み入るように響く日本の伝統の音色。新年を寿ぐその音色が唐寺の空気と混じり合うとき、おそらく長崎でしか味わえない豊かな時間が生み出されているようでありました。新春の定番曲「春の海」も奏でられ、初詣に訪れた大勢の人々が演奏に聴き入っていました。
興福寺での年越しの演奏会は、長崎在住の箏・尺八の奏者である竹山直樹氏とそのお弟子さんらによって数年前から行われているそうです。「年の初めに、日本人の感性が育んだ伝統の音色をあらためて感じてほしい」という竹山氏。異文化に美しく馴染む日本の音色の奥深さを感じた年の初めでありました。
元旦の午前零時台。興福寺での参拝をすませ、諏訪神社(長崎市上西山町)近くを通りがかると、初詣客のために深夜運行をしている路面電車から、大勢の人が降りてきました。出店で賑わう参道は早くも人々で埋め尽くされ、長崎県内でもっとも初詣客が多いといわれる神社の変わらぬ人気ぶりを目の当たりにしたのでありました。
初詣を終えても、新年を迎えたばかりの一月は折にふれ社寺に参拝したくなります。諏訪神社近くにある松森神社を訪れると、境内に植えられたロウバイが満開を迎え、あたりに甘くさわやかな香りを漂わせていました。学問の神様、菅原道真公を祀る松森神社は、この時期とくに受験を控えた学生たちの姿が目立ちます。拝殿横に植えられた梅を見ると、大半のつぼみが膨らんで開花も近いようでありました。
毎年、元日の頃に開花することで「元日桜」の呼び名で親しまれている西山神社(長崎市西山町)の寒桜。足を運ぶと五分咲きといったところ。これから満開を迎え、一月いっぱい楽しめるとのことでした。西山神社は1717年(享保2)、長崎聖堂の学頭で天文学者であった盧草拙(ろ そうせつ)が、妙見社を建てたことにはじまります。
妙見社は北辰(北極星)を信仰するもの。西山神社の鳥居の額束(がくづか)はちょっとめずらしい丸型をしていますが、これは北極星を現したものといわれています。江戸時代中期の長崎で活躍した盧草拙はたいへん有能な人物だったようで、書物改めなど唐船との貿易に関わる務めのほか、長崎奉行所にも勤務、さらに天文学者として江戸に招かれたこともあります。
学者になるほど星好きだった盧草拙は、ちょっと気になる長崎人のひとり。彼だったら、良い年になりますようにと、夜空の星を見上げ願ったに違いありません。