第16回 阿蘭陀料理編(一)
1.幕末から明治初期の洋食
最初のパスティに始まり、ペール(梨)コムポットまで13種。
▲古渡オランダ皿(越中文庫)
私は前号で紹介した東北大学狩野文庫所蔵の「阿蘭陀料理煮法」と「阿蘭陀料理献立」を参考にしながら幕末より明治初期の洋食を今回は述べてみたいと考えている。
両書共に最初に出されている西洋料理としてパスティをあげている。その料理の材料としては家鳩、鶏かまぼこ、椎茸、ひともじ、ささ燕巣、鶏卵、粒胡椒、肉豆蒄の粉と記しその調理法は、
○家鳩は四つ割りにしてボートルを以・赤く色つく様に炙り焦付ときは水を少しづつふりかけ撹する也。
○鶏の肉コウ(かまぼこ)鶏の肉を細くさき、鶏肉、ビスコイト、粉胡椒、肉豆蒄の粉を入、塩を加えまぜ合わせおおよそ竜眠肉の大きさに丸くし鳩同様にボートルにて焚る。
○鶏卵はゆで長さに四つきり右の具を一同にし胡椒の粉、肉豆蒄の粉を加え鶏汁にて煮込む。
2番目の料理はケレーフトソップと記してある。その調理法については次のように記述してある。
○材料。伊勢海老肉コウ、椎茸、ひともじ、海老を丸ながらゆで頭を去、竪に2つに切りて肉を抜き取り細くたたき、ひともじをきざみ、粉胡椒、肉豆蒄の粉、鶏卵、塩、ビスコイ此6品を加え撹ぜかまぼこを造る。
これを海老のからにつめボートルにて煮る。煮方はゆで海老の頭をつき砕き鶏汁に入れ撹ぜ布にて漉しアクを去る、此汁にて上の具を煮塩を加え塩梅するなり。
3番目の料理としては次の2品がでる。
1,ゲコークト・ヒス(ゲコークト=煮物・ヒス=肴)鯛鱈鰈の類
1,ゲブラード・ハルク(ゲブラード=揚物・ハルク=豕)炙豚 ボートル
但是よりペールコンホット(梨子)まで13種あり。上のゲーコクト・ヒスを引取り、その跡に一同でる。
ゲーコクト・ヒスの煮方は、魚・鯛、鱈、鰈の類の鰓腸を去り、塩水にて煮る。からし・ボートルにてゆるめ煮魚を浸し食す。
1,ケブラード・ハルク 豚の体股を取、毛皮を去り、膝節より足先を切、接股のさかいの所に割のかたを付て二重になしてまげ糸にて伸びぬようにくくり付け水にてよく煮、汁を捨てる。
ボートルおおよそ茶碗2盃入る。色つく様になるまで煮る。折々水をうちふり鍋に煮付ぬように煮あげ、其汁に塩を加えかけ汁とする也。但し豚に限らず野猪・羊・野牛の類いづれも是に倣ふ。
2.阿蘭陀料理煮法
鴨料理、小鳩料理、紙焼鶏等から菓子、スープの調理法まで。
▲九谷焼金彩赤絵蓋茶碗
この後、料理はゲブラードフウドル(鶏料理)ケブラードアンドホヤゴル(鷺料理)他鴨料理、小鳥料理、紙焼鶏、焼豚、焼鰻、蒸魚の料理と続き次の野菜料理3品を用意する。
○ゲストーフトラアプ(蕪菁) かぶらを蒸し芹葱を置て細くきざみ、ボートル・ビスコイト粒・胡椒の粉・肉豆蒄の粉を入れ撹ぜ塩を加え鶏汁をいれ煮て塩梅す。
○ゲストーフトゲルウヲルトル これば前述の材料が胡蘿蔔とかわる。
○スピナアジイ(菜または千さの類を用う) 野菜を柔らかにゆで鉋丁を以て至て細かにたたきボートル胡椒の粉、肉豆蒄の粉を加え鶏汁にて堅くにつめ若汁多き時はビスコイトを加えて塩梅す。
鉢に盛るときは其上をハアカにて平らめに慣て其上に鶏卵を四つ割にしてならべ別にパンを上にきせる。竿まわり長さ一寸余りに拵えボートルににて焚、是を鶏卵のあいあいに御して置なり。
次にペールコムポットが用意される。その製法は次のように記してある。
梨子の砂糖煮 梨を丸むきにし蔕付の所より穴をあけしんを抜去。水にてゆであげ穴の所より砂糖をつめこみローイウエを似て煮込むなり。
但、肉桂少し香気に加え又砂糖を入れ汁を密の如く濃く粘るようにするなり。折々に梨子に汁をかけ赤く色つくように煮るべし。
ローイウエインというのは葡萄酒のことであり、ボートルとはバターのオランダ語である。スコイトというのはビスケットのことであり、その作り方は次のように説明されている。
○パンを薄くはき臼に晒し細末にす。悉なる時はパンの上皮をはき去り内の水に浸しぶりて用也。パンの拵様は次にのぶ。
パンは麦粉を白酒にて堅くなておおよそ茶碗大に丸く少し長めに造り鍋に入れ上下より蒸焼にす。始めは至極く小火にて焼。少しふくらの出来た時、武火を以焼終わる也。但白酒はまんぢうを拵る時用る白酒なり。
次に菓子の事が記述されている。
○タルタ、○ソイクルブロートーかすていらに当たる。○ヒロース、○スペレッツ、○スース。そして前述の「阿蘭陀料理煮法」には、その菓子の製法が記してある。
次には「汁拵様」と記し、その調理法をつぎの様に記してある。
「汁は鶏を骨抜にきり水にて骨の砕るまで能く煮、布にてこし、汁をとり、別に麦の粉にボートルを入れておく・・・」とある。現在のスープに調理法を述べている。
次に本書は蒸焼調理法に関することも詳しく述べてある。
3.終わりに
この時期の阿蘭陀料理は、現在の西洋調理法の出発点。
▲19世紀長崎に輸入されたオランダ皿
(越中文庫)
この時期の料理が現在の西洋調理法の出発点になったのであり、これらの料理法が一般に普及するようになったとき我が国の料理史も大きく変化してきたのである。
このオランダ料理の出発点は勿論出島のオランダ屋敷に勤務させられていた3人の「オランダくずねり」(料理人)であった事も忘れてはならない。
第16回 阿蘭陀料理編(一) おわり
※長崎開港物語は、越中哲也氏よりみろくや通信販売カタログ『味彩』に寄稿されたものです。