第483号【ヘルシーなイカを食べよう】
ほんの少し前、「日本人はイカをいっぱい食べている」と言われた時代があったのをご存知でしょうか。昭和55年(1980)の日本のイカの漁獲量は68万トン。世界のイカの漁獲量の約半分を占め、国別ではダントツ一位でした(FAO漁獲統計)。その後、資源の減少や漁業の衰退にともないトップの座は他国にゆずりましたが、いまも日本国内における鮮魚の1人あたりの購入数量は、昭和40年(1965)がアジに次いで2位、昭和58年(1983)が1位、そして平成21年はサケに次いで2位(総務省「家計調査」、平成21年は水産庁作成データより) と、つねに上位にランクイン。やっぱり、日本人はイカをよく食べているようです。
三角のヒレをつけた長い筒状の胴体、そして10本の腕。本当は宇宙人?と思ってしまうような摩訶不思議な容姿をしたイカ。うんと昔、それをはじめて口にした人間は、ナマコ同様にちょっと勇気が必要ではなかったかと想像します。刺身のほか焼く、煮る、乾物、塩漬けなど、いろんな調理法がありますが、なかでも保存食でもある「イカの塩辛」は、料理名や漬ける時の材料に若干の違いはあるものの、北は北海道から南は九州・沖縄まで全国各地で作られてきました。
ところで、「イカの塩辛」には色合いが、白っぽいものと赤っぽいものがありますが、塩や米麹だけで漬け込むと白に、さらに内臓(肝臓)を加えると赤くなるようです。また、少数派ではありますが、黒いタイプもあります。イカ墨を加えたもので長崎県では「黒身あえ」といって、五島列島の北に位置する小値賀島をはじめ平戸島、そして大島といった島々で食べ継がれてきました。富山県にも「イカの黒作り」と呼ばれる同じような郷土料理があります。
この時期手に入りやすい「ヤリイカ」で「黒身あえ」を作ってみました。胴に包丁を入れ、なかの墨袋を破らないように取り出し、さっとゆでます。イカ墨をボウルにとり、少量の味噌、砂糖を丁寧にまぜるとつやが出てきます。これを短冊に切った身に加えてあえれば出来上がりです。
「黒身あえ」はヤリイカより肉厚で旨味のあるミズイカ(アオリイカ)だと、よりおいしいと思います。ミズイカは、これから冬場にかけてがシーズンです。さて、「黒身あえ」は、見た目が真っ黒なので抵抗がある方がいるかもしれませんが、イカ墨自体がもつ塩味と旨味は酒の肴に喜ばれそうな珍味です。未体験の方は一度お試しください。
「イカの塩辛」は発酵食品のなかでも酵母菌が豊富で、美肌効果が高いといわれています。また、イカは低脂肪、低カロリーで知られ、コレステロールを減らす働きをするタウリンを多く含みます。薬膳では、養血を補い心臓、肝臓を滋養するとされ、とてもヘルシーな食材として利用されます。
この秋もたくさん食べたいイカは、ちゃんぽんの大切な具材のひとつでもあります。とくに下足(げそ)部分は、いい出汁がとれ欠かせない存在です。塩辛もいいけれど、まずは、今夜あたりちゃんぽんで、イカを味わってみませんか。
◎ 参考:全国いか加工業協同組合ホームページ「日本人とイカ」、『ふるさとの家庭料理第17巻〜魚の漬込み 干もの 佃煮 塩辛〜』(農文協)、『聞き書長崎の食事〜日本の食生活全集42〜』(農文協)