第482号【秋めく長崎市街地の花々】
驚くような早さで秋めいています。寝冷えして風邪などひいていませんか?
長崎のまちを歩けば、夏の間、目をうるおしてくれた「ノウゼンカズラ」や「サルスベリ」の花々がそろそろ終盤を迎え、花びらをちらしています。朝晩の涼風に誘われたのか、市街地の高台に位置する立山地区では「ヒガンバナ」が咲いていました。いつもより1〜2週間ほど早い気がします。
学名は「Lycoris(リコリス)」。秋のお彼岸の頃に咲くことからヒガンバナと呼ばれるようになりました。異名が多く、「曼珠沙華(まんじゅしゃげ、まんじゅしゃか)」とも呼ばれるのは、この花がサンスクリット語で「manjusaka」と書くことに由来。また「幽霊花」などとも呼ばれ、ちょっと不吉なものを連想させるイメージもありますが、サンスクリット語では、「おめでたいことが起こる兆しの天上の赤い花」という意味があるそうです。
住宅街を彩るさまざまな庭木に目を向けると、実をつけたものをたくさん見かけるようになるのもこの時期ならでは。初夏、鮮やかなオレンジ色の花を咲かせていた「ザクロ」もそのひとつ。たわわに実って細い枝をしならせていました。「ザクロ」は種子が多いので子宝に恵まれるとか、豊かな実りをもたらすといった縁起のいい木とされ、長崎くんちではお供え物にしたり、「ザクロなます」というくんち料理として食べ継がれています。
庭木の実で「ザクロ」とともに目立つのが「ツバキ」です。ピンポン玉くらいの大きさの実のなかに茶色の硬い種子が入っています。種子から絞り出されるツバキ油は古くから食用にされ、髪や素肌を健やかに保つ油としても利用されてきました。長崎県内では、五島列島や島原半島などが良質のツバキ油を生産することで知られ、近年その良さがあらためて見直されているようです。
中島川にかかる眼鏡橋あたりで、ときおり観光客の足を止めていた花があります。「タデ」です。背丈のある茎の先に、穂状に垂れ下がった鮮やかなピンクの花が目をひきます。夏場から咲きはじめるタデの花期は意外に長く、もうしばらくは愛でることができそうです。
眼鏡橋の上流にかかる桃渓橋のたもとあたりでは、「ヤブラン」が紫色の花を咲かせていました。ヤブに咲くランに似た花、というのが名前の由来だとか。穂先に密集する小さな花を虫眼鏡で見ると、確かに似てなくもありません。花期は夏から秋にかけて。ヤブランは昔から根茎に薬効があるとされ、乾燥させたものは漢方薬として、滋養のほか咳止めや利尿薬などとして用いるのだそうです。日陰でもよく育つらしく、桃渓橋の「ヤブラン」もほかの植物の影のなかで旺盛に育っていました。
鉢植えでよく見かける花に「マリーゴールド」があります。春から秋にかけて次々に花を咲かせ、ガーデニング初心者にも育てやすいといわれています。メンキシコ原産のこの花が、西洋に伝わったのは大航海時代のこと。その後、日本へはオランダ船が運んだともいわれていて、江戸時代初めに編まれた園芸事典に、「紅黄草」の名で記されているそうです。植物たちもいまに至るまでにいろいろな旅路を経験しているのですね。
◎参考にした本・「四季を楽しむ花図鑑500種」(新星出版社)