第480号【石ころから見える地球の営み(長崎市三和町)】
小学生の頃、あなたの宝ものは何でしたか?友達のひとりに、学習雑誌「科学」の付録で手に入れた「石の標本」が宝ものだったという人がいました。プラスチックの小さな標本箱に並んだ十数個の石は、いずれも小指の先ほどの大きさ。黒光りした石炭をはじめ、コハクやピンクのきれいな色合いのものから灰色でザラザラしたもの、キラキラした粒子を含んだものなど個性的なものばかり。何度も眺めてはこうした石を産み育てた地球の不思議にドキドキワクワクしたそうです。
いろいろな姿形をした石に、興味や関心を抱いたことがある人は多いのではないでしょうか。なかには、偶然見つけたきれいな石ころが、水晶(セキエイ)だと分かって胸を躍らせたことがあるという人もいらっしゃるのでは?石は身近すぎて目立たない存在ですが、石が生まれるそもそものきっかけは、火山の噴火だとか、プレートの沈み込みにともなう圧力といった地球のダイナミックな営みによるものです。そこで今回は、気になる石や岩がある長崎市の三和地区(為石町、川原町、宮崎町など)へ行ってきました。
長崎港を付け根に、南西にのびる長崎半島。そのほぼ中央に位置するのが三和地区です。長崎駅からバスで約30分のところにあり、まちの東側の海岸は橘湾、西側は五島灘に面しています。前号でも少し触れましたが、長崎半島の西側の海岸は複数の恐竜の化石が見つかったことで知られています。ちなみに恐竜たちが生きたのは約2億5100万年前に始まる中生代といわれる時代。まだ日本が大陸と陸続きだった遥か遠い時代です。
今回は恐竜の化石が発見された方ではなく、東側の海岸へ向かいました。三和地区に入ると、道路に沿って流れる大川の川底には、緑色がかった石が目立ちます。岩石・鉱物の図鑑で調べると、緑泥石(りょくでいせき)という石に似ています。長崎半島は、「野母変成岩」と総称される結晶片岩類(けっしょうへんがんるい:地下の深いところで熱や圧力を受けた岩石)、蛇紋岩類(じゃもんがんるい:地球深部のマントルをつくる、かんらん岩が変質した岩)、変成はんれい岩(地球の深部で固まった岩石が変成したもの)という岩が広く分布しているそうですが、このような地質は、恐竜の時代よりもさらに古い約5億7000万年前の先カンブリア時代につながるものだそうです。
想像できないくらい大昔の地層の上を何気に車で走り、為石町と川原町の境にある年崎海岸沿い出ると、波風にさらされた「れき質片岩」がありました。全国的にもめずらしい岩だそうで、学術的にも重要なのだとか。さらにその先には、「蛇紋岩の円礫浜(えんれきはま)」というこれもめずらしい海岸が続きます。蛇紋岩は長崎県内では長崎半島と西彼杵半島以外では見ることができない岩。浜には、こぶし大の丸みのある蛇紋岩の礫が無数に広がっています。地元の女性によると、「この浜で泳ぐと小石の丸みが足裏にあたって心地いい」のだとか。波打ち際をよく見ると蛇紋岩の仲間なのか、いろいろな色合いの石がいっぱいです。
「蛇紋岩の円礫浜」のすぐそばには、野鳥、昆虫、淡水魚などが生息するネイチャースポット「川原大池」があります。池を囲む樹林の一角に花期を迎えたレモンイエローのハマボウが咲いていました。今回、三和地区で出会った石や植物、昆虫はデジカメに収め、あとで図鑑で名前や生態を調べることに(石や植物は自然保護のため、持ち帰らないようにしましょう)。自然豊かな三和地区で童心に帰った夏の一日でした。