第478号【長崎よもやま話(レモン、石畳)】
よそさまの庭先でたくさんの実をつけた李(すもも)の木を見かけました。梅雨前から終わりにかけて、木いちご、山桃、梅、杏など、おいしい実をつける植物がたくさんありますが、そんな季節もそろそろ終わりに近付いています。梅雨のはじめに漬けた梅シロップは、もう飲み頃を迎えました。水や炭酸で割って飲む自家製梅ドリンクは格別。クエン酸による疲労回復の効果があるので、暑さでバテそうなこれからの季節にぴったりです。
クエン酸といえばレモンです。スポーツをするときレモンの輪切りをはちみつ漬けにしたものを持参する方もいらっしゃることでしょう。また、レモンはご存知のようにビタミンCもたっぷり含んでいます。大航海時代の船員たちは、長い船上暮らしで生野菜や果物を食べる機会が少なく、ビタミンC不足から引き起こされる壊血病で命を奪われたものも多かったそうです。18世紀半ばになってイギリス海軍でレモンが壊血病に効果があることがわかり、予防のために果汁をしぼったジュースを飲むようになったといわれています。
レモンの日本への初渡来は明治になってからという説がありますが、江戸時代後期に唐船が長崎に運んで来たという説もあります。また、オランダ船の乗組員たちがレモンを壊血病予防に用いたという話は、これまで聞いたことがありません。オランダ船は拠点のある東南アジアで、緊急時の水分補給のためにザボンを積み込んだといわれています。ザボンは、ビタミンC、ビタミンEを多く含んだ柑橘類です。図らずもザボンで壊血病を予防したのかもしれません。
さて、レモンの爽やかな香りと独自の風味をいかしたレモンスカッシュやレモネードは、まさに〝夏の飲み物〟のイメージです。ちなみに、レモネードの呼び名が転訛したといわれるのがラムネです。ラムネの日本での製造のはじまりについては、幕末に長崎で、という説や明治初期に神戸で、という説もあります。
レモンの果汁に蜂蜜や砂糖などで甘味をつけ冷水で割ったレモネード。ハイカラともてはやされた時代を経て、日本人に飲み継がれ、いまとなっては昔懐かしい飲み物のひとつになっています。かつて居留地だった南山手界隈の一角にある小さな喫茶店でレモネードを飲みながら、そんなことに思いをめぐらしていると、窓越しに見える石畳にふと目が止まりました。
長崎らしい風景には、いつも石畳があります。かつて外国人居留地だった東山手・南山手界隈の石畳の多くは幕末~明治期に敷かれたものです。では、長崎市内に現存するもっとも古い石畳はどこにあるのでしょうか。長崎の郷土史に詳しい方によると、「サント・ドミンゴ教会跡」(長崎市勝山町・桜町小学校内)に残っているとのこと。サント・ドミンゴ教会は1609年に建てられ、わずか5年後に禁教令により破壊されました。遺構として残る石畳は中庭の一部と推測されるそうで、大きめの平らな石やいくぶん小ぶりの石を敷き詰めてあります。400年以上も前の宣教師や長崎の人々は、いったいどんな姿や思いでそこを歩いたのでしょう。想像するだけで歴史好きの血が騒ぐのでありました。
◎参考にした本/「ながさきことはじめ」(長崎文献社)