第477号【オランダ船が運んだアーティチョーク】
梅雨寒が続いて、風邪をひいている人もちらほら。季節に応じた食事でみだれがちな体調を整えたいものです。この時季、薬膳の献立では、臓腑のはたらきを高める食材(いんげん豆、干ししいたけ、きゃべつ、カリフラワー、じゃがいも、かぼちゃ、さつまいもなど)、気の巡りを良くする食材(たまねぎ、らっきょう、えんどう豆、そば、オレンジ、みかんなど)、体内の湿を取り除くはたらきのある食材(うど、冬瓜、とうもろこし、小豆、大豆、黒豆、そら豆、はとむぎなど)をよく使います。どれも普段使いの食材ばかり。いつもより意識して取り入れて、梅雨を元気に乗りきりましょう。
梅雨時の身体におすすめの野菜のなかには、いんげん豆、きゃべつ、かぼちゃ、じゃがいも、さつまいも、とうもろこしなど戦国時代から江戸時代にかけて、唐船やポルトガル船、オランダ船が日本に初めて運び込んだといわれるものが少なくありません。長い船旅に耐えられるものだけあって、丈夫で育てやすく、栄養価も高いものばかり。その昔の飢饉のとき人々をおおいに助け、現代人の健康にも役に立っているのですから、本当にありがたい野菜です。
さて、梅雨の晴れ間に散歩に出ると、住宅街の一角に設けられた小さな畑で、背丈が2メートル近くはありそうな巨大なアザミを見かけました。きれいな紫色の花と、ウロコ状の大きなガクがとても個性的。調べてみるとアザミではなく、アーティチョークという西洋野菜。地中海原産のキク科の植物で、日本では朝鮮アザミとも呼ばれているものでした。
アーティチョークは、ハーブの一種。花が咲いたら食用にはならず、つぼみの段階でガクや花芯をゆでていただきます。でんぷん質のホクホクとした味わいで、欧米ではポピュラーな食材だそうです。日本ではあまり馴染みがありませんが、一説には江戸時代にオランダ船が運び込んだのが最初の伝来ともいわれていて、江戸時代中期に栽培された記録も残っているとか。でも、さつまいもやいんげん豆のように庶民の間に広まらなかったのは、なぜ?アクが強いのでゆでるとき塩や酢などでアク止めする必要があったり、ガクを一枚一枚剥ぐのが面倒だったから?栽培上の理由も含め、日本に馴染まなかった理由が気になるところです。
アーティチョークのような渡来野菜のなかには、パセリ(おらんだぜり)、セロリ(おらんだみつば)、クレソン(おらんだがらし)など、別名で「おらんだ○○○」と呼ばれるものがあります。パセリは江戸時代にオランダ船が運んできたといわれてますが、セロリは秀吉の時代にポルトガル船が、クレソンは明治期にヨーロッパから、など全部が全部オランダゆかりというわけではありません。南蛮渡来の文物と同じように、目新しいものは「おらんだ○○○」と呼んでいたのですね。
料理でも、油やカラシを使った、当時としては珍しい調理法、製法のものは「オランダ○○」と呼ばれています。また、ねぎを加えた料理で、南蛮煮、南蛮焼と呼ばれるものは、南蛮人が健康のためにねぎをよく食べていた事に由来するとか。でも、本当のところはよくわからないのが、食べ物のルーツ。食べるときのうんちくはほどほどにして、しっかり味わっておいしくいただきたいものです。
◎参考にした本/「たべもの語源辞典」(清水桂一 編/東京堂出版)、「薬膳コーディネータ講座・食薬編(テキスト2)」(U-CAN)