第469号【春めく、中島川】

 ときおり訪れる小春日和。江戸期発祥の石橋群が架かる中島川沿いを歩けば、真冬にはなかなか姿を見せなかった鳥たちが元気に水辺を飛び交うようになりました。年中見かけるアオサギも、春めくなかで気分が良さそう。観光客が集う眼鏡橋から徒歩5分ほどの上流にかかる桃渓橋(ももたにばし)あたりでも、川面を素早く飛翔するカワセミの姿がありました。翡翠(ひすい)のような美しい色をしたカワセミは、渓流などに棲むと思われていましたが、いまではまちなかを流れる各地の川で見かけるようになったといわれています。川の水がきれいになったからなのか、エサを求めてなのか、その理由はわかりませんが、鳥たちがのびのびと暮らせるよう見守りたいものです。



 



 早春の気配が漂いはじめる1月下旬~2月初旬、長崎県下では各地の海岸でアオサ摘みがはじまったというローカルニュースが流れます。深緑色をした海藻のアオサは、水洗いして乾燥させ、お吸い物や味噌汁、天ぷらなどにしていただきます。実は同時期、眼鏡橋のひとつ下流に架かる袋橋のたもとでも鮮やかな緑色をした海藻が目立つようになるのですが、よくよく見てみるとこれがアオサだったのです。

 



 眼鏡橋あたりまでは、長崎港の海水と混じり合うところなので海藻が育っても不思議ではありません。早春の風物詩で、食卓に潮の香を運んでくれるアオサですが、さすがに中島川のそれを食するのは衛生上の問題がありましょう。また、ある漁村では原因不明の大量発生をして水質悪化につながり、漁師さんたちを困らせたこともあったとか。とはいえ、川の流れのままに揺れる深緑色はとてもきれいです。毎春この光景を楽しめますように。



 

 その中島川はいま「長崎ランタンフェスティバル」の装飾に彩られ、黄色のランタンの下を連日大勢の人が行き交っています。今年も春節の休暇を利用して来た中国系の観光客の姿が目立ちます。袋橋の上は、上流の眼鏡橋を入れてランタンの写真を撮ろうとする彼らでいっぱいでした。



 

 中島川沿いの散策を終え、中国語が飛び交うなかをくぐり抜けるようにして帰る途中、商店街で地元産の春キャベツとシマアジを購入。今夜は、白身魚の「ゴーレン」に春キャベツを添えていただくことに。「ゴーレン」は長崎の郷土料理のひとつで酒やみりん、しょうゆで下味をつけた白身魚(または鶏肉)に衣(小麦粉か片栗粉)を付けて揚げたものです。衣に甘味(砂糖)を加えて揚げるいわゆる「長崎天ぷら」とは別物です。

 

 「ゴーレン」の語源は、ポルトガルやオランダにはないといわれます。東南アジアに「ナシゴーレン」という料理がありますが、そこでいう「ゴーレン」は、「炒め物」を意味するとか。江戸時代、出島には東南アジア出身の人々がオランダ人に付いて働いていましたから、そこらへんに長崎料理の「ゴーレン」の語源はありそうです。またキャベツも江戸時代にオランダ船が長崎に運んできたのがはじまりといわれます。今夜も長崎ゆかりの食材を、ありがたくいただきたいと思います。



検索