第463号【狛犬いろいろ~踊る狛犬やグラバー家の唐獅子~】

 季節の深まりを感じるこの頃。長崎は穏やかな天候に恵まれて過ごしやすい日々が続いています。先日、浦上のカトリックの教会前を歩いていたら、千歳飴らしき長方形の袋を手にした園児の行列に出会いました。教会で七五三のお祝いをしてきたばかりのよう。ステンドグラスの光に包まれて、聖歌を歌いながら祝う七五三。これも長崎らしい風景のひとつかもしれません。

 



 さて、今回は狛犬の話です。神社の拝殿前や参道などで、悪いものが入ってこないように見張っている狛犬。少々マニアックかもしれませんが、狛犬めぐりを楽しんでいる方もけっこういらっしゃるのではないでしょうか。また、特に関心がなくても変わった狛犬に出会うと、「あらっ?」なんて心を動かされたりするものです。そこで今回は、ちょっと目を引く長崎の狛犬をご紹介したいと思います。

 



 「長崎くんち」で知られる諏訪神社(長崎市上西山町)は、狛犬の宝庫だと紹介したことがあります(当コラム384号)。その諏訪神社から背後の山を2kmほど登った先にある金比羅神社の境内の一角に、いわゆる「立ち狛犬・逆立ち狛犬」といわれるタイプが置かれています。諏訪神社にも同じタイプがありますが、金比羅神社のものは、まるで踊っているかのような躍動感があります。山頂近くの森林に囲まれた静かな境内だけに、「踊る狛犬」の姿は、より印象深く映るのかもしれません。



 

 唐寺・崇福寺の近くにある八坂神社(長崎市鍛冶屋町)にも、個性的な狛犬が数体。そのなかにクリクリの巻き毛でぬいぐるみのような体型をした狛犬がいます。表情をよく見ると、けっこういかめしい。だけど、かわいい。洋風と唐風と和風が混じったような姿です。



 

 長崎港を見渡す南山手の丘にたつ旧グラバー住宅(1863年築造)。現存する日本最古の木造洋風建築です。家屋の一角は温室になっていて、その入り口付近に狛犬のような石像が置かれています。どこか生々しさのあるしなやかな身体つきで、崇福寺の山門前に鎮座する唐獅子と系統的には似ています。おそらく日本の石工さんによるものではなく、中国ゆかりと思われます。



 

 そもそも狛犬のルーツは古代オリエントの時代にまでさかのぼり、メソポタミア文明の初期の王朝の遺跡からも獅子をデザインした調度品が見つかっているそうです。その意匠モデルは獅子(ライオン)だといわれ、強さと威厳を感じるその姿は、洋の東西を問わず人々を魅了。東へはシルクロードを経て東南アジア諸国に伝わり、中国では唐獅子、日本では狛犬として定着します。西欧では、建築物の装飾や王家・氏族の紋章などに取り入れられています。



 

 スコットランド出身の商人、グラバーさんの唐獅子は、この温室のある邸宅にずっと置かれていたそうで、彼が創始に携わったビール会社の麒麟ラベルのモデルになったというエピソードで知られています。獅子の意匠は、スコットランドの国章にもデザインされていますし、建築物の装飾にもふんだんに使われ、グラバーさんにとって故郷の風景のひとつだったと思われます。幕末に日本にやってきて、激動の時代を生きたグラバーさん。温室でつかの間草花を愛でるとき、唐獅子を通して遠い故郷へ思いを馳せることがあったかもしれません。

 

 

        ◎参考にしたもの/『狛犬事典』(上杉千郷)、『日本全国獅子・狛犬ものがたり』(上杉千郷)

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